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揺れる心
第11章 星の結晶
「でもさ、初期は気をつけた方が良いよね。
このベッド、固すぎない?
寒くない?
悪阻は?」

「やだ。
陸也さんたら、お父さんみたいに心配して?」

「とにかく、転んだりしないように気をつけて?
明日から診療所、休んで?
風邪とかうつされたら大変だから」

「マスクするから大丈夫よ?」

「ダメダメ。
帰国するまで安静にしてて?」

「でも…遅れてるだけかもよ?」

「ちゃんと確定するまで、
お願いだから言うこと聞いて?」


押し切られるような形で、
養生させられることになってしまった。


そして、陸也さんの浮ついた様子を見て、
周りのお母さん達が察してしまって、
今度は、
これが身体に良いからとか、
お腹を冷やさないようにとお腹周りに巻く布とか、
ブランケットや敷物を皆さんが家に運んで来てくれる。


子供達が、
「赤ちゃん触りたい」と言って、
まだぺったんこのお腹を触りに来る。


「陸也さん、これで生理がきちゃったら、
みんな、ガッカリしちゃいますよ?」と言うと、

「誰にも言ってないのにな」と頭を掻いた。


3月中旬には引き継ぎをするドクターが現地入りして、
診療所に一緒に行くようになった。

イギリス人の若いドクターで、
「真理子さんはアメリカ英語じゃなくて、
美しいイギリス英語を喋りますね?」と言うので、
「でも、ロンドン訛りは難しいですね?」と笑って言ったりした。


そして、本当に生理は止まったままで、
空腹になると、気持ち悪くなるようになったので、
確かに妊娠してるようだった。


帰国の日が近づいてきた。

あまり荷物もなかったし、
生活用品はそのまま残していくことにしていた。


スケッチブックや文房具なんかは学校にお渡しした。
使わなかった生理用品なんかは診療所に置いた。


そして、来た時と同じドライバーさんの車で空港に送って貰って、
飛行機でデリーに向かって、
同じホテルに一泊した。

顔馴染みになったスタッフさんが、
シーズンオフだからとスイートルームにアップグレードしてくれた。


サリーの生地のお店に立ち寄って、
母へのお土産を選んで包んで貰っていると、
「次回はジュニアとご一緒に」と店主さんに言われる。

「えっ?」と驚くと、

「ご主人様がそれはもう気遣っているし、
奥様もお腹を庇ってるように見えましたので…」と笑われる。
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