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揺れる心
第8章 突然のさよなら
「陸也さん…。
不思議な香りがする…」と言うと、

「カレーの匂いでしょ?
毎日食べてたから」と笑う。

「そうだ。
チャイ、淹れてあげる。
ちょっと待ってて?
キッチン借りても良いかな?」と言って、
子供の髪を撫でるように私の髪を撫でると立ち上がって玄関に放り投げてた鞄を持ってくる。

中から何かの包みを出してキッチンに行く。

冷蔵庫から牛乳を出して、
小さなホーローのお鍋に入れると弱火で香辛料と一緒にお茶を煮出してからお砂糖を入れて混ぜる。

部屋の中がふんわりと香辛料の香りに包まれていった。


マグカップに注ぐと、
「はい。どうぞ」と手渡してくれる。


息を吹きかけながら飲もうとして、
「熱っ!」と呟くと、
「猫舌なんだね?」と言って、
マグカップを一度テーブルに置いた。


「少し冷めるまで待とうか」と言って、
肩に腕を回してくれるので、
私はそっと寄り掛かって、
また、少し泣いてしまう。


「料理なんてしたことなくて、
日本に居た時はコーヒーも自分で淹れたことなかったけど、
インドでは結構、家事もしてるんだよ」とのんびりした声で話をしてくれる。


「停電も多いから、明るくなったら起きて、
暗くなったら寝る生活。
夕食の時間に停電になるとさ、
蝋燭つけて、食べるんだよ。
街灯もないから、
凄く星が綺麗なんだ。
真理子さんに見せてあげたいな」


「星?」


「うん。
星。
本当に凄いよ?
こんなに星、あるんだってビックリしたもん」


「見てみたいな」


「でも、凄い処だから、
真理子さんは行けないかな?
驚くほど田舎で、
何もない処だよ。
日本人も居ないし。
あ、でも、
真理子さんが好きそうな綺麗な布とかはあるよ。
サリー用のやつとかね。
冷めたかな?
ちょっと飲んでみて?」


もう一度、マグカップを渡してくれる。
今度は飲めそうな温度になっていた。

思ったより甘いけど、スパイシーなチャイ。


「美味しい!」と言うと、

「良かった。
真理子さん、やっと笑ってくれた。
でも、無理して笑わなくて良いよ。
泣いて当然なんだから」と言われて、
また、泣いてしまった。
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