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鬼の花嫁
第1章 プロローグ
戸惑いの声でなんとか返事をすると、父が更に険しい表情になる。それは、どこか情けをかける言葉を探しているようだった。
躊躇いがちに視線を逸らしたり、李蘭を見つめたり、そしてようやく意を決したのか仄暗い光を灯した瞳が李蘭を捕らえる。なんとなく、嫌な予感がした。
「次期に、例の鬼が参る。お前には本当に悪いことをしたと思っているが……どうか、鬼の贄として差し出されてくれないか」
「え……?」
予想外の内容に、李蘭は思わず呆気にとられてしまう。父の言葉ははっきりと伝わった。しかし、理解したくないと脳が拒絶している。
「鬼様の、贄に……?」
言葉にして初めて自分に置かれた状況に絶望を覚え、背筋に悪寒が走った。つまり、李蘭に与えられたのは、縁談の話とは無縁の地獄への招待状だったということである。
父はそれを教えるように、闇夜に訪れる死の神のような冷えた目で李蘭を見下ろしている。
(どうして、私が……?)
未知に怯える恐怖と、自分が悪鬼とやらに差し出されるという屈辱から勃然と憤怒が湧き上がった。それでも暗然として声が出ないのは、心のどこかでまだ淡い期待を抱いていたからなのかもしれない。李蘭は、父がタチの悪い冗談を言っているのだと思うことしか出来なかった。そうやって自分を洗脳しなくては、動揺する心を宥めることはできそうにないのだ。
「……悪い、本当にすまない」
しかし、父の涙まじりに怯える声音を聞いて、李蘭の宿望は簡単に打ち砕かれたのだと悟る。予想よりも遥かに残酷な現実に、目眩さえした。
「差し出す、とは……その」