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鬼の花嫁
第1章 プロローグ
悪い冗談だと言って欲しい。
李蘭は、真意を確かめたくて震える声で父に訴えた。
「贄だ。鬼の贄として、お前の全てを捧げるのだ」
「本当に、私が、贄に……?」
李蘭の認識が間違いではないことを優しく教えているようでありながら、父の言葉も声色も、やけに冷たかった。
父も父であまりに深刻そうに告げるものだから、李蘭は村の人々の俗言を嫌でも思い出してしまう。
贄といえば、ここら一帯では有名な話である。鬼様と呼ばれ、人々から恐れ慄かれているその存在に、命を捧げるというものだ。彼はまさに天災そのものだと言っても過言ではないほど、凶悪で横暴で、殺戮やら共食い、色をも好んでいた。
人々に危害を加える悪鬼だと、討伐に出向いた村人たちもいたが皆返り討ちに遭ってしまった。
その鬼は人間の姿見をしているというのに、圧倒的な存在感に加えて戦闘能力に恵まれてもいるらしい。
百戦錬磨の鬼に誰もが挑み誰もが敗れ、せめてものと、彼の行動を収めるために何人もの女子供が捧げられ、そして行方を眩ませるというのだ。それが、鬼の生贄になるということである。
作り話か昔話の類いかと思っていたのだが、父の険しい表情を見る限り、信じ難いが現実の話をしているらしい。
「……仕方ないだろう。何よりお前は身体が悪い。健康な妹や姉たちをくれてやりたくはないのだ」