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鬼の花嫁
第2章 鬼と娘
「李蘭と言ったな」
「は、はい」
「怯えなくともすぐに殺しはしないさ。顔を上げて見せよ。俺が気に入れば、お前はしばらく生かしてあげよう」
それは、見定めるということである。鬼様の気に入る容姿であれば、鬼様の気に入る態度をとれば、生きることを許されるということだった。
それをいち早く汲み取った李蘭は、喪失していた自信を僅かながら取り戻した。自分は昔から容姿だけは、と可愛がられてきていたのをよく知っている。
李蘭は村の人たちよりもいくらか上級の家に生まれたため、食事も栄養のあるものばかりだった。そのおかげで誰もが羨む美貌を保ち続けているのだと自覚しているが、そのせいで今この場に送り出されたのも一つの理由である。それは、なんとも皮肉な話だった。
(あんなに裕福な暮らしをしていた私が、こんな所で死んで堪るものですか……!両親に意趣返しをしなくては気が済まないわ……!)
鬼様の言われた通りに顔を上げると、怯えに怯えていた李蘭の表情はもう見えなくなっていた。
白粉を塗りたくられても尚、病弱だというのがありありとわかってしまうような青白い顔色は隠せていない。しかし、キッと驕慢さのある鋭い目つきと相まって、婀娜っぽく見えるのは李蘭の天性である。そうと言えど、明らかな手弱女とは言えぬ艶やかな表情が、鬼様の視線を奪った。
見定めるような視線が、暗闇の中でジッと這う。睥睨するような獰猛な瞳が堪らなく恐ろしくて、震えは一向に止まらない。それでも、目を背けてしまえば鬼様が不快に感じるのではないかと思い、その視線から逃れないように笑みを取り繕った。
「へえ、可愛いじゃないか。少しだけ品に欠けるけれど……仕方ない。男に抱かれたことがないような、清廉さが残ってる」
「も、申し訳ありません……わたくし、そのような経験がないもので、おぼこ故……」
「それで良い。俺は生娘の肉が好きだからな。自分で育てるもよし、その前に喰らうのもまた美味だからな。さて、お前はどうしてやろうか」
くつくつ、と揶揄うような笑い声と共に、長い指先が暗闇からヌッと伸ばされる。長くて白くて細い、人間と同じ形をした指先が顎を撫で、首筋を辿り、胸元に忍び込もうとする直前で止められた。李蘭は突然のことに驚いて、「ひゃっ」と小さく悲鳴をこぼしてしまう。