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マッスルとマシュマロ
第13章 縋る女
多くの女と関係を持ってきた宏樹ではあったが、そこに感情が入るのが苦手だった。
奈保の真剣な目を避けるように、奈保の手を、そっと自分の身体から離す。
それでも、奈保は、宏樹に身体を寄せ、縋るように言う。
「お願い。抱いてみて。きっとわかるから。私の体の良さが・・・一度でいいから・・・一度だけ・・・」
もう、雨が二人をずくずくに濡らし始める。
「ホントに、そんな気ないんで。もう、俺には声をかけないで。」
宏樹はとうとう、奈保の手を振り解くように言って、バス停に向かって走り始める。
ちょうどバスが来て、救われるようにそのバスに乗り、家路に着く。
バスは、夏の名残の設定のままなのか、雨に濡れてしまった宏樹には寒いほどだ。
宏樹は寒さに身をすくめながら、縋るほど欲情するとは、どんな思いなのだろう、と考えていた。
さっきの奈保の姿が、心からの行為ではないことは、宏樹には薄々感づいてはいる。欲しいものを手に入れたくて駄々をこねているようなものなのだろう。
ただ、本当に縋りたいほど欲情する相手に巡り合ったら?
自分は、そんな想いを持ったことはない。そこまでする気持ちになるような相手に、人は巡り合うことは、あるのか?
宏樹は、疲れてため息をつきつつ、少し微睡ながら、帰りのバスに揺られていた。