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マッスルとマシュマロ
第48章 混沌
 華が階段の手すりに縋るようにしながら階段を降り始めた時、バタン、と玄関のドアが閉まる音がした。


「待って・・・正弘さん・・・待って・・・」



 走って追いかけようとした時、足がもつれて、華の視界の中で床と天井がひっくり返る。


 頭に強い衝撃を受けて、華は、しばらく気を失っていた。


 華が気づいた時には、階段の一番下だった。

 頭の奥の方が、ぐわんぐわんと痛むような、目の前が霞むような気がしている。



誰かを・・・追いかけたかったのに・・・。



 華がぼんやりしていると、階段下のチェストの上に置いてある鍵や小銭入れの横の華のスマートフォンが振動していた。

 ゆっくりと立ち上がって、その画面を開くと、息子からのLINEだった。

 今日まで息子は塾の合宿のはずだった。
 息子からは、今週末の試験期間が終わるまで、友人のうちに泊まってくる、という連絡だった。



華はまた、ぼんやりとしてしまう。


さっき、正弘さんも・・・今週末まで、どこかに行くって・・・。


 華は、ぼんやりとしたまま、また寝室に戻った。

 すると、寝室のシーツが乱れたまま、シミのようなものがついたままになっている。


私・・・今朝・・・ここで・・・すごくいやらしいことをしたような・・・。


 華はそんなことをぼんやりと考えながらも、長年の主婦としての癖のように、するするとシーツを剥がし、それを洗濯にかけ、家中の掃除を始めたのだった。


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