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マッスルとマシュマロ
第20章 生い立ち



 宏樹の母親は、彼女なりに宏樹を安心させようとして言った。




「心配しなくても、あなたの父親は、人としての優秀さをたくさん持っていたわ。
容姿端麗、頭脳明晰。性格も温厚で、スポーツもできるような一級の男よ。」




 そして、まるで自慢げに言ったのだ。




「私もいつかは子供を欲しいと思っていたから、時間のある学生時代ならちょうどよかったし。
何よりそんな良い遺伝子がもらえたのなら、こんな良いことはないって思って、あなたを産んだのよ。」




 母には、それがどれほど自分を傷つけるか、わからないのだ・・・。

 宏樹には嫌悪感が広がっていた。



 母は、いつも、そうだった。目的を決め、そこに邁進する。



 生物学が好きで、自分でも色々な本を読んでいた宏樹には、母の行為は、まるでサラブレッドの繁殖のように思えた。




優秀な遺伝子・・・それだけのために、父は、種馬のように見定められ、愛もなく生を受けたのが、この自分・・・。



 宏樹は、その封筒に手も触れず、自室に戻った。



優秀な遺伝子が欲しいからと、愛もなく父との間に子を成した母。
自分の存在を知りながら、金だけ送ってきた父。
自分は、愛されない子どもなのだ・・・。



 唯一、心を許せていた琴美も去った今、宏樹は甘えた心に蓋をして生きていこうと決めたのだった。

 それ以来、初めてかもしれない。あんなに人に甘えたのは・・・。



あの人は、今日、僕の甘えを、全て受け止めてくれた・・・。



 宏樹の中で、今日の公園で楽しく歩いたこと、優しく介抱してくる華の声、その肌の感触がまた蘇り、また華に会いたくてたまらない気持ちになる。



 でも、あんなことまでして、あの人は、また、僕に会ってくれるだろうか?



 宏樹はもう一度開いてしまった自分の柔らかな心を持て余して、ため息をついた。



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