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マッスルとマシュマロ
第33章 焚き火の前で
「でも、自分の子供を気にしないなんて事はないわ、、」
華は、夫が宏樹をずっと見つめ続けたことを教えてやりたかった。
「きっと、お父さんはあなたを気にしていたわ。」
もう一度、華が、はっきりと宏樹を見つめて言う言葉に、宏樹は、少したじろいだ。
華を見ると、まっすぐな目で宏樹を見つめている。
宏樹はそのまっすぐさに、それ以上何かを言う気にもなれず、また、白ワインを一口飲んだ、
そんな宏樹に、久美が言う。
「気にする方が負けよ。確かに林田トレーナーは素敵なんだし、そんな人、気にすることはないわ。その人を見返してやるくらいでいいんじゃない?」
宏樹は何も言えなかった。別に父の話をする気も、それを聞いてもらいたかったわけでもない。でも、それをこんな風に思わず吐露してしまったと言うことは、それが潜在意識で引っかかっているのか、とハッとした。
自分は、父のことについて何も知らない。知ろうともしてこなかった・・・。むしろそれが、自分のくだらないこだわりなのか・・・。
その時、そっと、華が宏樹の手を握った。
宏樹は、華の手の温もりと真っ直ぐな目を見つめながら、確かにそろそろ自分の生い立ちに縛られるのは終わりにする時期なのか、と感じていた。