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マッスルとマシュマロ
第47章 心を柔らかくするもの


 宏樹は秋の昼過ぎの、ほとんど人が乗っていないバスで大学に向かっていた。



 ここしばらく、研究が疎かになっていて、痺れを切らせた夏菜子から、一度顔を見せるように、とメールが届いていた。

 昼過ぎに、家に帰るという華を切なく見送り、居ても立っても居られないような気持ちになった。
 自分を切り替えたくて、夏菜子のところに行こうと決めて家を出たのだった。



 でも、バスに乗ってしまうと、身体には力が入らず、ぼんやりと窓の外を眺めながら、週末の湖畔から、先ほどまでの、華との時間を思い出していた。



あの柔らかな肌・・・自分にだけ見せる蕩けたような顔・・・慈母のような全てを包む笑み・・・たわわな乳房・・・優しい声・・・



 華といる時の自分は、これまでとは全く違っているようだった。

 全てを受け止めてもらえる喜び、安心感。


 そんな華が、完全に自分のものにはならないという事を思う時の、胸を締め付けられるような痛み。

 でも、貞淑な人妻だった華の、自分にだけ見せ始めた淫靡な顔を思う時の、言いようのない喜び。



 心臓を締め付けられるような、顔が火照るような、でも指先だけ冷たくなるような、そんな感触が宏樹の身体を駆け巡る。



 一人の女性を想ってそんな風になることは、宏樹には初めてのことだった。



 気がつくと、バスは大学構内に入っていた。






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