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マッスルとマシュマロ
第48章 混沌


「お帰りなさい」



 ドアを開いた華は、柔らかく微笑む。

 正弘は、そんな華を、眩しいものでもみるような気持ちで眺めた。

 いつもの華なら、少しはにかむように、でも子犬のように自分を見てくるのに、今日はとても大人の女性の落ち着き、艶やかさがあるようで、でもその目の奥は、どこか遠くを見ているようだった。



 正弘は、それが自分が仕事と嘘をついて、竜馬と過ごすつもりだという後ろめたさのせいだ、と感じていた。



「すまない、すぐに出るよ。ラボがちょっと面倒なことになっていてね。」




 華の目線を避けるように、話しながら二階のクローゼットに行く。

 華はそのまま正弘の後ろについて行きながら、その背中を見つめ、混沌とした記憶を見ていた。



 華の中で、昨日の夜、自分を抱いた男と、今朝、電車の中や、公衆トイレや、剃毛されたバスルームで淫靡を尽くした男が重なっていたのだ。



 華は、今、自分に背を向け、ボストンバックに着替えを詰めているその男の頭の形や耳に視線を這わせながら、公衆トイレでその耳や頭を掻き抱いて腰を蠢かせた感触を思い出していた。



 正弘は、いつもなら出張の用意もいそいそと手伝う華が、何も言わずに自分を見つめていることに、とても罪悪感を感じつつ、背を向けたまま、下着や替えのシャツなどをバッグに詰めて行く。



「少なくとも、日曜くらいまではかかると思うよ。」



 華はぼんやりと、正弘の言葉を聞き、胸の奥がチクっと痛むのを感じていた。



この、不安な感じは何かしら・・・?でも、この人
は、私を愛してくれていて・・・今朝だってあんなに私を気持ち良くしてくれて・・・いつもみたいに剃毛して下さったわ・・・。


 やっと、正弘が用意を終えて、華を見た。



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