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マッスルとマシュマロ
第4章 バスの向こう
でも、と、華は思う。手を繋いでいるわけじゃない・・・女に腕を乗せられて、振り払うわけにもいかないだろう。仕事関係の人かもしれない・・・。
そのとき、夫は、その女性と道路に面した高そうなフレンチのお店の前に立つ。
そして、夫は、ドアボーイが開けたドアの中に入る時、その女性をエスコートする様に、腰に手を回し、寄り添う様に店に入った。
華は、バスの中で必死に涙を堪える。
華を責め苛んだのは、嫉妬よりも、劣等感、だった。
夫に、あんな風に腰に手を回されたことはない。
あんな、モデルのような女性と、自分・・・。
夫が、これまで、自分をほとんど抱かなかったのも、そういうことなのだろうか・・・。
華は、バッグから携帯を出し、以前の顧客で華にジムを勧めてくれた経営コンサルの女社長のLINEにメッセージを送る。
"ご無沙汰しています。西洋ギャラリーの平井華です。
突然で申し訳ありませんが、以前お話しされていたジムをご紹介いただけませんでしょうか。"
華は、自分を変えたい、と心から思っていた。
あんな女性になれないことはわかっている。でも、少しでも、夫が自分に振り向いてくれれば・・・。
華は、夕暮れのバスの中で、一人涙を堪えていた。