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マッスルとマシュマロ
第8章 エディプスコンプレックス


 今、宏樹が共同研究をしている人文科学の教授の矢野夏菜子にその不思議さを問うてみた時、面白い返事が帰ってきた。


「遠い遺伝子を求める方が、有利だという論点もあるけれど、最近では、優位な遺伝子を残しつつ、外的な遺伝子を入れる方が効率が良いのでは、って研究の流れになってるわね。」

「だから、親に似た人で、親じゃない人と結婚するのは、遺伝子的にもメリットがあるし、文化的に言えば、その方が価値観も似てて、家庭がうまくいくから、そういう人たちの方が強く残ってきたのだと思うわ。」

「人間の進化においては、遺伝子だけじゃなくて、文化による淘汰、みたいなものもあるから、より、そういう傾向が強まっているとも思うのよ。」



 そして、夏菜子は揶揄うように言った。


「お母さんみたいな人を好きになったの?」
「まあ、俺の場合は、それはないかな。」
「宏樹先生なら、よりどりみどりでしょうけどね。」
「そうでもないですよ。本気になれるような人にはなかなか出会わない。」


「まあ、恋は落ちるものだから、不意にくるわよ。」


 夏菜子は50を過ぎた大人の余裕でそう答える。


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