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海に映る月の道 〜last tango in Paris〜
第4章 Valet & Earl 〜従者と伯爵〜
…なんなんだ…!
なんなんだあのひとは…!

狭霧は足早に階段室の前から立ち去りながら、心の中で激しく毒づいた。

…なんなんだよ!
あれは…!
単なる有閑マダムとの火遊びじゃないか!
くだらない…くだらなすぎる!
そんな、いい加減なひとだったのか⁈

…しかも…
狭霧は形の良い口唇を噛み締める。

…俺に気づいたのに笑っていた。
笑って、あの女にキスをした。
性的な匂いを漂わせた、濃厚な淫らなキスだった。

胸がちくちくと不快な痛みに襲われる。
自分の存在など、これっぽっちも気にしていないのだろう。
だからあんな風に笑って、キスをするのだ。
まるで、自分のことを空気かなにかのように気にもかけずに。
…激しく落ち込む。
落ち込みながら、はっと気づく。
いや、なんで俺が落ち込まなきゃいけないんだよ!
あのひとが誰とキスしようと、不倫しようと、俺には何の関係もないじゃないか!

動揺を振り払うように廊下を駆け抜け、狭霧はバルコニーへと向かったのだ。


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