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天然少女の夏休み
第1章 天然少女
 そんな、たぶん少女の親族に聞かれたら口を揃えてお前には関係ないと罵倒されそうな杞憂を抱き自販機の前まできて、少女に何を飲みたいのか聞いてくべきだったと死ぬほど後悔した。

 他人の心配なんてしている場合じゃない。
 こういうところで気が回らないからこの年になっても彼女のひとつも作れないんだろうなと妙に納得し、オレンジジュースのボタンを押した。

 踵を返し、炎天下の墓所を神社へ向けて走る。別に走る必要なんてないだろうに、これじゃ完全に下僕ではないか。けど、一刻も早く少女のノドを潤してあげたかった。

 そして、やっとの思いで墓所の隅っこにある神社まで舞い戻った。

 足をとめると身体中から汗が噴き出してくる。たった数百メートルを走っただけでこれだ。自分のぶんも買ってくるべきだったかもしれない。

 少女は社の縁側の、ちょうど日陰になる場所に座っていた。彼女の雰囲気がなせる技なのか、この炎天下のなかでも彼女は涼しげで、汗だくの僕とは対照的だった。

 僕の姿を認めたらしく、立ち上がり、トテトテと歩み寄ってくる。

 視線は僕にではなくジュースに釘付けで。

「はい。これでよかった?」

 と僕が缶を差し出すと、やはり無表情のまま小さな声で、

「ありがとう」

 と呟いてジュースを受け取った。

 自販機と神社を往復した苦労など、そのひとことで霧散してしまった。
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