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北の軍服を着た天使
第1章 Episode 1
「……お言葉ですけど!!女の子が道を渡ってるのを見えたはずなのにスピードを落とさなかった貴方達にも問題が有ると思います!!」
ここに居る人々の中で私の言葉の意味を分かるのは、隣で青白い顔色をした彼女だけだろう。ちなみに、彼女の肌の色は健康的なものだ。今、こんなにも青白いのは私の言葉を聞いて、意味が理解出来たからだろう。
「リサさん!!止めて下さい!」
「チェさん、確かに私は危険な事をしました。すみません。あなたにも謝ります、すみませんでした。」
「……。」
先ほどまで怒り狂っていた40代半ばくらいの男性はもちろん、私の大阪弁混じりの日本語なんて理解出来るはずがない。
第一声が怒っている感じなのは、何となく理解出来ただろうが、次の瞬間にしおらしく頭を下げられた事が理解出来ないのだろう。それこそ、外国人は怒ったり謝ったりこんなにも移り変わりが早いのか、と不思議がっているに違いない。
だけど──やっぱり言いたい事はそれなりに有る。
「私は、確かに危険な事をしました。でも、あなた達の運転だって凄い危険でした。防げる事故は防いであげる事が大人の責任だと思います。それに、国籍とか性別とか自国で有るとか無いとかそんなの関係無いですよね?」
「どの国であっても子の命は宝です。しかも、ガイドさんが謝る必要だって本来なら無いはずでしょう?そこまで私が人として許されない事をして、この責任を誰かが取らないといけないのなら、私の事をどうぞ、気の済むまで叩いて下さい!」
と、左頬を指指した彼は、私の言いたい意味が分かったのだろう。銃の安全装置をゆっくりと外した。……これが人間の凄いところだと思う。
海外ロケですぐに外国の人と仲良くなってしまう千原セイジじゃないけど、人間ってのは言葉が通じなくてもお互いの顔や声色でその時、どんな感情を持って、何が言いたいのか、大体は理解してしまうのだから。
そして、北朝鮮の凄い所といえば、叩けと頬を指差しているのにも関わらず安全レバーを引いてしまうところだ。……軍人の持つ銃口が、一ミリもブレる事なくしっかりと私の頭に向けられていた。