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鬼の哭く沼
第7章 花は綻ぶ

「分からない」


考えてもわからないから、素直にそう答える。


「どうしてかなんて分からないけど、須王だ、って思ったから。貴方も驚いたかもしれないけど、名前を呼んで一番驚いたのは私の方。どうして、って。でも、ほんの少しだけやっぱり、とも思った気がする」

「……。ナゼ」

「だって、最初に助けに来てくれたのはあの蛇だったから。ああ。やっぱり須王だったんだな、って」


一番最初に助けに来てくれるのは、他の誰でも無い「須王」だと心のどこかで勝手に期待していた。信じていた、のかもしれない。そして事実、そうだった。

ありがとう。
もう一度そう礼を言って、微笑む。暫しの間考え込むように沈黙し、須王はぽつりと呟いた。


「…俺ハ、コノ忌マワシイ姿ガ嫌イダ」


抑揚の無い、どこか途方に暮れたような弱弱しい声だ。そうなの、と相槌を打つ。何故、とは訊かなかった。


「コレハ呪イダ。陰ノ気ガ満チル朔ノ夜ダケ、コウシテ蛇ノ姿トナル。禁ヲ破ッタ俺ヘノ、父カラノ呪イ…」


え、と思わず声が漏れた。

父親の、呪い。

思いもしなかった言葉に香夜は強張った顔を須王へ向ける。蛇は香夜の視線を受け、それから逃げるように頭を垂れた。


「……俺ノ父親ハ、蛟(みずち)ダッタ。俺ハ、ソノ父ヲ喰ラッテ鬼ニナッタノダ」






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