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鬼の哭く沼
第7章 花は綻ぶ

「ソレモ俺ヲ気ニ食ワナイ者タチカラシテミレバ、不満ノ種ダッタノダロウ」


ある日、兄坊主の一人が須王の夜外出を見咎め、こう進言したのだ。


『鬼子が夜半に山へ行くのは、天狗と画策して外道を行っているに違いない』、と。


時を同じくして寺のある村を初め、周辺の村々は水不足による飢饉に喘いでいた。兄坊主はその飢饉を須王の外法によるものだと訴えたのだ。
当然須王は否定したが、その兄坊主は地元の有力者の息子で寺にも多大なる寄付金を奉納していた為妄言と知りつつも簡単に退ける事も出来ず。元々須王に良い感情を持っていなかった他の坊主たちも一丸となって騒ぎ立てた為、「外法を行う鬼子」の噂はあっという間に村の内外へ広まった。


「騒ギハ当然、預ケ主デアル母親ノ親ドモノ耳ニ入ッタ。住職一人ノ力デハ俺ヲ庇イキレズ、ヤムナク元ノ村ヘ戻サレル事ニナッタ」


戻ったは良いが、当然須王の居場所など無い。暗欝として村へ戻った須王を迎えた大野木殿はその夜、帰郷祝いだと言って酒を振舞った。寺へ預ける前はあんなに余所余所しかった祖父母が、酷く優しかった。すまなかった、つらい思いをさせた、と頭を下げられ生まれて初めて肉親の情というものに触れたと思った。
だが。


「血ハ争エン…」


くく、と須王が喉を鳴らす。

まだ幼い子供ながら、血筋であろう酒好きのする須王は初めて口にする芳しい酒をたらふく飲み、良い気分で眠りについた。
その夜、寝込みを襲われ身体中を麻縄で縛られた須王は数人の大人たちに外へと運び出された。向かった先は山の中、木々を分け行った先にある神社のそのまた奥。

蛟が棲むと言う沼だった。


「それは……」


嫌な予感がして、まさか、と目を見開く香夜に須王はしゅうう、と息を漏らす。


「スマキニサレタ俺ハ、ソノママ沼ニ沈メラレタ」


父親である弥三郎こと蛟の住まう沼へ。

そんな、と漏れた悲痛な呟きのその先は続かなかった。



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