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鬼の哭く沼
第7章 花は綻ぶ
香夜は弾かれるように離れていく須王のその身体に腕を回して抱き締めた。一瞬、蛇の身体がびくりと震えて逃げようとする。だが、離すまいと力を込めると観念したのか、香夜を首元にぶら下げたまま大人しくなった。
「忌まわしくなんか、ないから」
「………?」
ぐい、とざらつく鱗の感触に頬を押し当てる。涙に火照った頬にひんやりとした鱗が心地良い。
今は体温を感じないこの肌が、とても熱い事を香夜は知っている。
「蛇は、苦手…だけど。須王は綺麗だと思う。鱗だって、赤くて宝石みたいで…すごく綺麗だった。だから…だから、自分を忌まわしいだなんて、言わないで」
「…カヨ……」
ずるりと膝裏を押し上げる感触の後、ふわりと身体が浮いた。一瞬の浮遊感に驚いてしがみつくようにするとすぐに全身を包まれる。真綿で包むように、壊れ物を扱うようにそっと、慎重に須王が香夜を自分の身体に抱いていた。
「香夜。カヨ……」
何度も名前を呼ばれ、うん、と答えて蛇の顔に手を伸ばす。優しく、頬に掌を滑らせる。風花や雪花に、あんなにも優しい目を向けていた須王。きっと、自分と同じ境遇の双子だからこそ気持ちがわかるのだろう。
(誰だ、この鬼を怖ろしいだなんて思っていたのは)
こんなにも、優しくて、傷付く痛みを知っている。
「カヨ……ウ、グウゥ…!」
突然、須王が苦しげに呻き出した。重ねられた蛇の胴体に腰かけるようにして抱かれていた香夜を離し、痛みを堪えるように長い尾の先が傍らの壁を叩く。その衝撃で壁にかかっていた掛け軸らしき物がばらばらと畳に落ちた。
「ちょっと、やだ…ねえ!須王、どうしたの…っ」
尋常でない苦しみ方に慌て、のたうつ大蛇の身体を撫でる。大きな身体が、小さくカタカタと震えているのが酷く痛々しい。
「ねえってばっ…!」
「ッ、ウ…ダイジョウ、ブ…ダ…ッ」
「大丈夫なわけないでしょう?!そんな苦しんでて…」
どうしたものか。医者を…いや、九繰を呼ぶべきかと動揺する香夜に、須王は掠れた声でもう一度大丈夫だと訴える。
「スグ、ニ…治マル…ウッ…。直ニ、夜ガ明ケル…カラ…」