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鬼の哭く沼
第7章 花は綻ぶ
明るい陽の光の元、あどけない寝顔を見つめながら乱れて頬にかかる髪の一筋をそっと退けてやる。滑らかな頬の感触が離れ難く、髪を退けた後も何度も肌を往復して堪能してしまう。
涙に濡れながらも、赤く上気していた頬。普段より羞恥に赤らむその様子をはっきりと確認できたのは、蝋燭の灯ではなく陽の光の元で抱いたからだ。今までもこうして己に対して頬を赤らめていたのだろうか。そう思うとなんだか酷く勿体無い事をしてきたようで、今後は昼陽中の明るい最中にも抱こうと一人心に決める。
「ん…っ。す、おう…?」
ぼんやりと頬を撫でていた須王の耳に、香夜の甘く掠れた声が届く。
どうやら起こしてしまったらしい。覚醒しきれていないのか、腕の中で薄らと寝惚け眼を開け眩しそうにぱちぱちと瞼を瞬かせる仕草すら愛おしい。
「まだ眠っていろ。今日はこの部屋でゆっくり休むと良い、風花と雪花には伝えておく」
「ん……」
理解したのか、していないのか。曖昧な返事をして小さく欠伸をする。
頭を撫でてやるとほうっと息を吐いて額を擦り寄せてきた。まるで猫のようだ、と笑っていると香夜が突然かっと目を見開いて須王の胸に腕を突っぱね距離を取る。
「っ、な…わ、…ええええ?!」
「なんだ、騒々しい…」
「いや、だって……っつ、痛…!」
顔を真っ赤にして叫び、上半身を起こそうとして悲鳴を上げて腰を押え崩れ落ちた。そのまま「うぅ」だの「あぁ」だの呻いていたが観念したのか大人しくなった。
「……布…」
「……?布がどうした」
「何でも、いいから…着物でも、布団でも…っ」
身体を縮め、今度は消え入りそうな声でそう言う香夜に意味がわからないまま手近にあった香夜の夜着を拾い、顔を覗き込む。その首元まで朱に染まった様子を見て思い至った須王は、くつくつと喉を鳴らした。
「何を恥じている。今更だろうが」
「っうる、さい!」
少し残念に思いながらもばさりと夜着で縮まった裸体を隠してやると、中からくぐもった声でありがとう、と聞えた。