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鬼の哭く沼
第7章 花は綻ぶ
目を覚ました瞬間の反応に、交わった事を後悔しているのかと懸念したが…どうやらただ恥じらっているだけのようだ。些細な香夜の反応にも、こうして気を回してしまう自身に呆れるしかない。
夜着に包まってしまった香夜の身体を、布の上からそっと抱き寄せる。小さな身体はひくりと震えたが、拒絶はしなかった。
「……ねえ、須王」
「…なんだ」
首筋に顔を寄せ、布地越しに香夜の匂いを嗅ぐ。微かな桃の香りと、香夜自身の花果のような甘い匂い。痛みに響かないようにと気を配りながら腰を抱き、腕に閉じ込める。
「あの、えっと…夜着の傍に、何か、落ちてなかった…?」
「………?」
言い辛そうにそう尋ねる香夜の意図がわからず首を傾げる。
何か?何か、とは何の事だ。
「首飾りの事か?それならお前が身につけているだろう」
「いや、この飾りのことじゃなくて…」
「では、なんだと言うんだ」
訝しげに眉を寄せ、夜着の襟を捲って香夜を覗き込む。俺に言い出し辛い物を失くしたという事か。俺以外の、他の男から贈られた物でもあるのか。
俯いて口ごもる香夜に、胸中に湧きあがる嫉妬心が黒く感情を染めようとする。
「言え、何を探している」
「う…いや、それは…」
「…そうか。言えんか。言えんのなら、今ここでお前の身体に…」
「っ、鱗…!!」
「訊いて……何?」
低くなった声に被せるように、香夜が自棄になって声を上げる。言い渋るなら実力行使も問わない、と気を張った須王は間の抜けた声を漏らして腕の中を見下ろす。
「鱗…だと?」
「……そう、鱗。…須王の」
自分の、鱗?何故、そんなものを。
意味が理解出来ずに黙り込んだ須王に、香夜はぽつりぽつりと白状する。
「助けて貰った時、須王が落としていったの。鱗を、一枚だけ。綺麗な赤色で…宝石みたいだったから、持ってたんだけど…夜着の内側に入れておいた、から。何処か落ちてないかと、思って…」
「………」
恥じらっているのか、語尾は小さく消えていく。
「…鱗は、もう無い」
「え、そうなの?そっか、どっか失くしちゃった、かな…」
綺麗だったのに、と呟く声が心底残念そうで。
「違う」
「え…?」