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鬼の哭く沼
第7章 花は綻ぶ
「あれは、朔の夜が明ければ俺の身体が戻るのと同じく消える。だから、もう無い」
「ああ、そう…いう意味」
なんだ、失くしたかと思ってびっくりした。
ほっとしたような声音に、感情より先に身体が動いた。夜着を退け、小さく悲鳴を上げて驚く香夜の身体を仰向けにして抱き締める。無粋な布地は必要無い。
力を込めたら簡単に潰れてしまいそうな華奢な身体を抱き、己を見上げる黒真珠の瞳を見つめる。そこに映る、感情に溺れた鬼の姿を。
「鱗など、いくらでもくれてやる」
「す、おう…?」
「お前が望むなら…この身の全てを。血も、肉も、骨の一欠けらさえ惜しまん…すべてお前に捧げてやる」
だから、お前も俺だけを見ていればいい。
薄く開いた唇に噛みつくように口づけ、須王は目を閉じた。
永く降り続いた須王の雨は、ようやく上がったのだ。