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ある冬の日の病室
第2章 奇跡
 意志の強そうな知的な目をしていて、肩まで伸ばしたストレートの黒髪が里奈には似合っていた。一度しか会っていないが、里奈はサスペンスドラマのヒロインではなく、その物語のカギを握るミステリアスな女性の役がぴったりはまる。
 白衣の下に隠されている胸は、巨乳ではないが、こんもりと膨らんでいて、形や乳首の色を想像しただけで、僕のペニスは勃起した。ただ、想像することに後ろめたさを感じた。里奈には中三になる男の子がいて、その子の立場になれば、見知らぬ男が、性欲丸出しで自分の母親の胸を想像することなど許すはずがない。それでも思い描かずにはいられないくらい里奈はエキゾチックだった。
 翌日、僕はまた里奈に会った。それは僕が寝ずに待っていたとかなんかではなく、夢の中でとてもいい香りに包まれたのだ。それを探ろうと目を開けると里奈が僕のベッドの脇に立っていた。
「御免なさい、また起こしたみたいね」
 里奈は顔を僕に近づけてそう言った。昨日と同じ香水の匂いがした。
「構いませんよ。実は里奈さんに会えることを期待していたんです。そうしたら目が覚めて」
「ふふふ、翔君はそんな風にして女の子をひっかけるの?」
「違いますよ!」
 声が大きくなった。里奈は唇に人差し指を立てて、声を小さくするように僕に促した。
「私みたいなおばさんに会えることを期待しているなんて、なんだか嬉しいわ。ありがとう」
「里奈さんはおばさんなんかじゃないですよ。とても綺麗で、美人だし、美しいというか」
「ふふふ、綺麗、美人、美しい、みんな同じね、ふふふ」
「すみません」
「ねぇ、翔君はお母さんのことを何と呼ぶの?」
「くそババぁ」
「えっ? そんな呼び方したらお母さん怒るでしょ?」
「でもくそババぁも僕をくそガキって呼ぶんで、あいこです」
「面白いお母さんね」
「いいえ、くそババぁです」
「ふふふ。ダメダメ、お母さんはお母さん、くそババぁなんて呼んじゃダメよ」
「……はい」
 叱られるのが嬉しかった。
「翔君は若いから、きっと早く良くなるわ。そうすれば退院も予定より早くなるだろうし。早く退院できるようにがんばろうね」
「はい」
 思うわずそう返事をしたが、僕は里奈に会えるならずっとこのままでもいいと思っていた。

 
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