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ある冬の日の病室
第2章 奇跡
例えば僕が三つ年上の女と付き合ったとしても、僕と三つ年上の女の間には、万里の長城のような高くて長い壁はできないと思う。三つ年上でもため口になるだろうし、絶え間なく周りから発信されてくる情報も、若さが放散するある種のフェロモンのようなものも、当たり前のように二人で共有していくだろう。
じゃあ二十以上も年が離れていたら? そんなこと考えたこともなかった。考えたところで答えはすぐに見つからない。だって僕は四十一の女に興味を持ったことなどないし、僕となんか永遠に接点ができるわけがないと漠然と思っていた。
里奈のことを考えながら目を瞑り、眠りに落ちていく日が続いた。
その日の深夜、いつものように里奈が訪れることを知らせる甘い匂いで目が覚めた。
「起こしちゃってごめんね」
「全然」
「ねぇ、翔君。ちょっと訊いていいかな?」
いつもより顔を近づけて里奈は僕にそう訊ねた。
「なんですか?」
「翔君は中学のとき部活動は何をしていたの?」
「バスケットボールをしていました。……それが何か?」
「……うん、ちょっとね」
「僕なんかでよかったら何でも訊いてください」
里奈は何だか言いづらそうにしていた。
「ありがとう。じゃあ洗濯とかどうしていたの?」
「洗濯? ああジャージとかの洗濯ですね。くそババぁが、あっ、母さんが全部してました。それがどうかしましたか?」
「……下着も?」
「下着ってパンツとかですよね。ええ、母さんがしてましたよ。汚れたジャージと洗剤を洗濯機の中に入れるだけですけどね」
「そうなの」
「それがどうかしたんですか?」
里奈は僕に何が訊きたいのだろうか?
「……翔は、ああ私の息子の翔よ。翔は最近私に洗濯させないの」
「洗濯させない? 自分で洗うということですか?」
「そう」
「立派じゃないですか。僕とは大違いです。自分で洗濯するやつなんて僕の周りにはいなかったな」
「でしょ? 変だと思わない?」
「変?……凄いと思うけどな」
「そう?」
「何か心配なことでもあるんですか?」
益々里奈のことが気になった。
「……」
「僕でよかったら何でも言ってください」
「……あれだと思うんだけど」
「あれ? ……あれって何ですか?」
五秒ほどの間。
「……夢精かマスターベーション」
「……オナニー!」
大声を出した後、僕は誰も目が覚めないことを願った。
じゃあ二十以上も年が離れていたら? そんなこと考えたこともなかった。考えたところで答えはすぐに見つからない。だって僕は四十一の女に興味を持ったことなどないし、僕となんか永遠に接点ができるわけがないと漠然と思っていた。
里奈のことを考えながら目を瞑り、眠りに落ちていく日が続いた。
その日の深夜、いつものように里奈が訪れることを知らせる甘い匂いで目が覚めた。
「起こしちゃってごめんね」
「全然」
「ねぇ、翔君。ちょっと訊いていいかな?」
いつもより顔を近づけて里奈は僕にそう訊ねた。
「なんですか?」
「翔君は中学のとき部活動は何をしていたの?」
「バスケットボールをしていました。……それが何か?」
「……うん、ちょっとね」
「僕なんかでよかったら何でも訊いてください」
里奈は何だか言いづらそうにしていた。
「ありがとう。じゃあ洗濯とかどうしていたの?」
「洗濯? ああジャージとかの洗濯ですね。くそババぁが、あっ、母さんが全部してました。それがどうかしましたか?」
「……下着も?」
「下着ってパンツとかですよね。ええ、母さんがしてましたよ。汚れたジャージと洗剤を洗濯機の中に入れるだけですけどね」
「そうなの」
「それがどうかしたんですか?」
里奈は僕に何が訊きたいのだろうか?
「……翔は、ああ私の息子の翔よ。翔は最近私に洗濯させないの」
「洗濯させない? 自分で洗うということですか?」
「そう」
「立派じゃないですか。僕とは大違いです。自分で洗濯するやつなんて僕の周りにはいなかったな」
「でしょ? 変だと思わない?」
「変?……凄いと思うけどな」
「そう?」
「何か心配なことでもあるんですか?」
益々里奈のことが気になった。
「……」
「僕でよかったら何でも言ってください」
「……あれだと思うんだけど」
「あれ? ……あれって何ですか?」
五秒ほどの間。
「……夢精かマスターベーション」
「……オナニー!」
大声を出した後、僕は誰も目が覚めないことを願った。