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女堕ち
第1章
仄暗い街灯が数本立つだけの、夜の公園だった。
遼一は腕時計を見た。
9時を少し回っている。
遼一は急に立ち止り、すぐ後ろを歩いている有紀子に向き合った。
タクシーを降りてここまで歩いて来たのだ。
ここからすぐのところに有紀子が住む家がある。
遼一は今が別れ際だと思った。
金曜の夜だった。
先ほどまで二人でクリスマスイルミネーションが輝く街角で食事をしていたことが嘘のように思えるほど、回りの景色は変っている。
もう生活臭漂う住宅地だ。
遠くで犬の鳴く声が聞こえる。
遼一は有紀子に近づき、真剣な眼差しで彼女を見つめた。
「有紀子さん……一度だけでいいですから、有紀子さんを抱きしめさせてくれませんか?」
「え?」
有紀子は驚いた表情で、背の高い遼一を見上げる。
「ここでです。ここで抱きしめるだけです。それ以外は何もしません……」
有紀子は返事をせずにうつむいた。
『だめ』とも言わない。
『いい』とも言わない。
そう、それでいい……。
揺れ動いている証拠だ。
今、有紀子は、“人の妻”であることと“女”であることとの狭間を行ったり来たりしている。
それこそ俺が目を付けた女だ。
遼一は自分のこの女を見る目が正しかったことを確信した。
次にやることはもう決まっていた。
有紀子をいきなり引き寄せ、抱きしめた。
二人ともコートを着ていた。
それを考慮し、ある程度の力を込めた。
「ああ……」
有紀子がわずかに声を上げる。
遼一は「有紀子さん……」と、それだけつぶやき、更に腕に力を込めた。
「ああっ……」
有紀子からまた声が漏れる。
はやり拒みはしなかった。
抱きしめている片方の腕を、有紀子の背中をまさぐりながら徐々に下に降ろしていった。
尻の膨らみのところに来た。
一瞬だ。
片方の尻の膨らみを、ぎゅっとつかむと、自分の下半身に押し付けた。
遼一の股間と、彼女の柔らかい腹の部分が密着した。
「あっ……」
今度は小さな驚きの声だ。
でも逃げない。
「ああ……有紀子さん、有紀子さん……」
遼一は身体を押し付け、うわ言のように有紀子の耳元につぶやく。
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