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茅子(かやこ)の恋
第4章 母の優しさ
「着替えたよ」
航が声をかけるとバスルームから返事が聞こえた。扉を開くと水着の母が現れた。母は黒い小さなビキニを着ていた。航は思わず目を逸らした。

「なに、お母さん変?」
少し焦った顔で母が航に声をかけた。航はその表情と声にいつもの母を思い出した。外ではしっかり者の母は、家ではすこしおっちょこちょいの可愛い人だった。

「似合ってるけど、ちょっと派手じゃない?」
「だって航を産む前の水着だもん。まだ着れるってすごくない?」
看護は体力、母はいつもそう言いながら家で腹筋をしていた。その成果で母のお腹は締まっていた。航は恥ずかしさと同時に美しい母に嬉しくなった。

「勘違いするとよくないよ!」
航がふざけて言うと母は笑顔で航のおでこを指で優しく弾いた。バスタオルと浮き輪を持つと、帽子とサングラスを着けた。

「さあ、泳ぎにいこう!」
「うん…」
航は母に手を引かれビーチへ出かけた。航はやんちゃな幼稚園のころ、湘南の海に行ったことを思い出した。母の水着はそのときと同じだった…。

黒い小さなビキニを着けた美しい母親は、水の中で航に無邪気に抱きついていた。そのたび小さなころと違う恥ずかしさを感じた。そしてビーチやプール、ホテルの中で水着の母親は周りの男たちの視線を集めていた。自分の自慢の母親は他の男にとって性の対象なのだと航は気が付いた。

グアムの二日間はあっという間に過ぎた。ショッピングモールにも行き、母はたくさん買い物をした。それはいつものように、ほとんど航の物だった。最後の夜、ふたりはビーチでバーベキューを楽しんだ。そして部屋に戻ると夜遅くまで話をした。

航はすっかり元気を取り戻していた。そして小さなころのように母親にたくさん話をした。母も親としてだけでなく人生の先輩として、真剣に答えてくれた。それはお互いベッドに入ってもずっと続いていた。未明まで語り尽くすとやっとふたりは目を閉じた。翌朝、航が目覚めたのは9時を回っていた。そして太陽の光が差すベッドの上で母が航の顔を覗き込んでいた。
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