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茅子(かやこ)の恋
第2章 夜勤
その日、本来パート看護師が夜勤のはずだった。しかし子供が熱を出したと連絡があり、公休だった看護主任の茅子が急遽代わりに出勤した。息子のご飯を作りラインでシフトが変わったことを伝えた。思春期ですこし扱いが難しくなった航からは既読が付くだけで返事はなかった。ため息をついて出勤し事務所に入ると、同僚の翔太が笑顔で話しかけてきた。

「小林主任、今日の夜勤よろしくお願いします!」
「はい、こちらこそよろしく!」
吉田翔太は20才、高校を出て2年前の4月に新卒でこの介護施設に就職していた。病院から転職した茅子と全くの同期入社となり、彼の人懐っこい性格もあり最初から親近感があった。お母さんが看護師で本人もいつか看護師になりたい思いがあり、茅子はよく相談に乗っていた。そしていつの間にか男女の関係になっていた。

深夜0時を過ぎ休憩時間になると、茅子のスマホにラインの着信があった。そして茅子は休憩前の巡回にエレベーターで4階に上がった。フロアの真ん中にある詰所でしかめっ面で記録を書いていたSさんが、頭を下げた茅子を見ると老眼鏡を外した。

「お疲れ様です、主任」
「皆さんお変わりないですか?」
「はい、異常なしです。3階は翔太君が休憩中です」
Sさんは報告を終えると「はい、どうぞ」と茅子の手にチョコレートを握らせた。茅子がお礼を言うと、Sさんは話し好きな60代のオバサンに戻っていた。

「あれ、今日はスカート?」
「…そうなんです、急な出勤だったので」
「あー、Kさんの代わりだよね」
茅子は少しだけドキッとしたが、話題がKさんのお子さんになりホッとした。2~3分立ち話をしているとナースコールが鳴った。

「やだ、Wさんのトイレの時間だ!」
Sさんは茅子に会釈すると利用者の部屋に向かった。茅子も会釈を返すと3階を巡回してから2階に下りた。

2階の担当者に同様に報告を受けると、茅子はエレベーターで1階に降りた。看護師の休憩室に入ると翔太にラインした。既読を確認すると茅子は靴下を脱ぎ休憩室の鍵を閉めた。もどかしい思いを秘め階段を静かに5階まで上がった。5階には喫煙所と職員の休憩室があった。細心の注意を払いドアを閉めると、茅子は小さな声で翔太に話しかけた。
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