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茅子(かやこ)の恋
第12章 葛藤
秋になり、航の大学生活もあとわずかになった。母が家を出て、ちょうど3年が経った。その間、母がマンションに戻るのは年に1回、お正月だけだった。ふたりは敢えて離れることで、愛を確かめていた。離れている間、茅子は翔太と関係を再開し、航は結衣との関係を始めていた。

「いらっしゃい」
「お邪魔します」
結衣が航のマンションに来るのは、初めてふたりがセックスした日以来だった。それまでもふたりは結衣のアパートでも数回関係を持ったが、節度ある交際をしていた。航は留学をめざし勉強とバイトに励んでいた。結衣はアルバイトを辞め、看護師になる勉強のラストスパートに入っていた。ふたりとも無駄な出費を抑え、学生の本分を守っていた。

「やっと病院、決まったよ!
「ほんと?!おめでとう!!」
航が玄関を閉めた途端、結衣が満面の笑みで口を開いた。結衣は卒業後、地元に戻る。大学病院が第一希望で、その願いがやっと叶った。

「だからケーキ、買って来ちゃった!」
それはマンションの下にある、いつものケーキ屋だった。ケーキが入った小さな箱を大事そうに持った結衣が、航に付いてリビングに入ってきた。

「やっぱりきれいしてる!」
部屋を見渡すと感心したように結衣が声を上げた。微笑んだ航がその声をキスで塞いだ。

「…あんっ、後で」
「後で…?」
「うん…後でいっぱいしよっ!」
はにかんだ結衣を航は力いっぱい抱きしめた。結衣はケーキをそっとテーブルに置くと、航の背中に腕を回した。

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