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メダイユ国物語
第2章 ラバーン王国のプリンセス
「パウラ、姫様たちを連れて来て」

 ファニータは傍らの小柄な侍女に命じた。色白の肌に、肩まで伸ばした金髪をおさげにしたパウラは最年少の十二歳。まだ見習い侍女である。

「マレーナ様あ! お迎えが参られましたあ!」

 まだ子供で背の低い彼女は、サイズの合っていない袖の余った給仕服のスカートをはためかせながら、マレーナとグレンナの元へ向かって駆け出した。

「分かったわ、パウラ!」

 言いながら、深くため息を吐くマレーナ。ファニータの方へ目をやると、丘の上にちょうどヨヌ・ルーが駆け登って来たところだった。

 手慣れた手綱さばきでヨヌ・ルーの脚を止め、跨っていた男は颯爽と鞍から降りた。

「やはりここだったか」

 兜と甲冑を身に着けた男は、呆れ顔で侍女のファニータに声を掛ける。

「いつものことながら、お前たちも災難だな」

「い、いいえ。そんなことは……」

 ファニータは苦笑いで答えた。

「あの、ウェンツェル様、お城の方は……」

 小走りでひと足先に二人の元へやってきたグレンナは、神妙な面持ちで訊く。

「ああ、まだ騒ぎにはなってないよ。座学の教師は頭から湯気が出ていたけどね」

 頭の兜を取りながら、ウェンツェルは笑顔で答えた。彼は二十二歳の好青年で、王族の血筋ということもあり、気品に満ちた美男子である。

 侍女二人は彼に見惚れて頬を紅潮させた。

「彼女たちは悪くないわ。わたしが無理言ってついて来てもらっただけだもの」

 パウラを連れたマレーナがやって来ると、ウェンツェルにぶっきらぼうな言葉を掛ける。彼との結婚について、マレーナはいまだにわだかまりを感じていた。

「分かってます。マレーナ様」

 ウェンツェルがかしこまった態度で言うと、

「わたしの婚約者のつもりなら、そういう言い方はやめて」

 頬を膨らませるマレーナ。

 その時だった。

 城の方からドーンという爆発音が、立て続けに数度鳴り響いた。空気の震えも感じるほどの大音量だ。

「今のなに?」

 マレーナたちが目を向けると、街には幾筋かの黒煙が立ち昇っていた。城のすぐ近くにも同様の煙と炎が見える。

「火事……でしょうか?」

 グレンナが震える声を上げる。だが誰も事態を把握出来ていない。答えられる者はなかった。
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