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メダイユ国物語
第2章 ラバーン王国のプリンセス
「全く……姫様には敵(かな)いません……」
ほっと胸を撫で下ろすグレンナ。
「でも、あなたが羨ましい。好きな殿方と一緒になれるなんて」
「姫様にだって、ウェンツェル様がおられるじゃないですか」
ウェンツェルとは、国王一家の護衛を務める近衛(このえ)隊『ランス騎士団』の隊長であり、またマレーナの許嫁(いいなずけ)――婚約者でもあった。元々彼はラバーンの出身ではなく、同盟国の小国ノルドゼイユの王族の血筋である。ラバーンとノルドゼイユは、連邦制以前からの友好国同士であり、マレーナの父ラバーン国王はウェンツェルを次期国王として迎えるつもりでいた。
「お父様が勝手に決めた相手よ。わたしの気持ちなんか、どうだっていいんだわ」
互いに国を治める親同士の決めた婚姻、つまり政略結婚である。決してウェンツェルのことを嫌っているわけではないのだが、自分の意志が無視されていると考えるマレーナは、自身の結婚話には反発していた。
「あ……!」
マレーナとグレンナの二人から少し離れた場所で、侍女のファニータが声を上げた。赤茶けた癖っ毛の彼女は年齢十七歳の侍女で、歳が近いこともあり、マレーナとは一番仲がよかった。
座学を抜け出し、無断で外出しているマレーナを連れ戻しに来る者がいないか、ファニータは城の出入り口を監視する役目を受け持っていた。
「姫様! グレンナ様! お屋敷の門が開いてヨヌ・ルーが一頭出て来ましたあ! こちらに向かって来ます!」
薄い褐色の肌が健康的な印象を与える彼女は、王女たちに大声で伝えた。
ヨヌ・ルーとは二足歩行をする大型の鳥類の一種である。翼は退化しており空を飛ぶことは出来ないが、温厚な気性で人間に従順、走るスピードが速いことから、この世界では乗用として重宝されていた。
「誰が乗っているのか見える!?」
離れたところまで声が届くよう、口元に掌を添えながらグレンナが訊く。
「ええと……近衛隊長のウェンツェル様のようです!」
陽射しを遮るように額に手をかざしながら目を凝らし、ファニータは答えた。
「やっぱり……姫様、噂のウェンツェル様がお迎えに来られたようです」
グレンナは王女に伝える。マレーナは苦笑いを浮かべ、無言で頷いた。
ほっと胸を撫で下ろすグレンナ。
「でも、あなたが羨ましい。好きな殿方と一緒になれるなんて」
「姫様にだって、ウェンツェル様がおられるじゃないですか」
ウェンツェルとは、国王一家の護衛を務める近衛(このえ)隊『ランス騎士団』の隊長であり、またマレーナの許嫁(いいなずけ)――婚約者でもあった。元々彼はラバーンの出身ではなく、同盟国の小国ノルドゼイユの王族の血筋である。ラバーンとノルドゼイユは、連邦制以前からの友好国同士であり、マレーナの父ラバーン国王はウェンツェルを次期国王として迎えるつもりでいた。
「お父様が勝手に決めた相手よ。わたしの気持ちなんか、どうだっていいんだわ」
互いに国を治める親同士の決めた婚姻、つまり政略結婚である。決してウェンツェルのことを嫌っているわけではないのだが、自分の意志が無視されていると考えるマレーナは、自身の結婚話には反発していた。
「あ……!」
マレーナとグレンナの二人から少し離れた場所で、侍女のファニータが声を上げた。赤茶けた癖っ毛の彼女は年齢十七歳の侍女で、歳が近いこともあり、マレーナとは一番仲がよかった。
座学を抜け出し、無断で外出しているマレーナを連れ戻しに来る者がいないか、ファニータは城の出入り口を監視する役目を受け持っていた。
「姫様! グレンナ様! お屋敷の門が開いてヨヌ・ルーが一頭出て来ましたあ! こちらに向かって来ます!」
薄い褐色の肌が健康的な印象を与える彼女は、王女たちに大声で伝えた。
ヨヌ・ルーとは二足歩行をする大型の鳥類の一種である。翼は退化しており空を飛ぶことは出来ないが、温厚な気性で人間に従順、走るスピードが速いことから、この世界では乗用として重宝されていた。
「誰が乗っているのか見える!?」
離れたところまで声が届くよう、口元に掌を添えながらグレンナが訊く。
「ええと……近衛隊長のウェンツェル様のようです!」
陽射しを遮るように額に手をかざしながら目を凝らし、ファニータは答えた。
「やっぱり……姫様、噂のウェンツェル様がお迎えに来られたようです」
グレンナは王女に伝える。マレーナは苦笑いを浮かべ、無言で頷いた。