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メダイユ国物語
第4章 非情な実験
 彼はマイクを置くと続けてマレーナに向かい

「では姫君もお部屋へお戻りください」

 と言いながら、懐から出した鍵で彼女の手足の枷を外した。マレーナはようやく自由を取り戻した。

 彼女は窓から隣室を見る。獣の雄を相手にし、相当な体力を使ったのだろう、未だぐったりとしたファニータ。部屋に戻って来た白衣姿二人は、彼女の身体を抱きかかえ、ベッドに寝かせた。

(ファニータ……可哀想に。あんなケダモノに無理やり……)

 目を伏せるマレーナ。涙が止まらなかった。

(せめて、この実験が失敗しますように。人間とあの獣との間になど、子供が出来ませんように)

 医療施設からの帰り道、兵士の同行で塔の私室へ向かうマレーナは、心の中で強く祈るばかりだった。

 だが彼女は知らなかった。今回の実験のさなか、排卵誘発剤の効果により、ファニータの卵巣は卵子を卵管に放出していた。

 通常の人間同士の性行為の場合、男性器からは一度の射精で四千万以上の精子が放出される。膣内に放出された精子は、ごく一部の元気な物だけが子宮頸管を通り子宮内へ入ることに成功する。その子宮内に入れた精子も、半数は卵子の無い側の卵管に行ってしまうため、最終的に卵子のある卵管に到達出来るのは数十から数百と言われている。受精とは、かなり確立の低い現象なのである。

 だが、ドワモ・オーグとの性行為はわけが違う。ファニータの子宮内で彼が直接放った大量の精液は、人間を遥かに上回る億単位の精子を有し、彼女の左右両方の卵管までも満たした。その片側で卵子を取り囲んだ無数の精子のひとつは、否応なしに卵子の細胞膜を突き進んで内部への侵入に成功していた。ファニータの胎内では今まさに、受精卵が目まぐるしい勢いで細胞分裂を繰り返しているのである。
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