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メダイユ国物語
第4章 非情な実験
        4

 その日の夕刻、王女マレーナの私室では、侍女パウラがひとり主の帰りを待っていた。

 家事をひと通り終えた彼女は、窓から外の景色を眺めながら物思いに耽る。陽がだいぶ傾いてきた。開いた窓から吹き込む風も、だいぶ涼しくなっていた。

(マレーナ様、ファニータ様のことはお分かりになったのでしょうか……)

 パウラもまた、先輩侍女であるファニータの行方が心配でならなかった。

 ――ドンドンドン

 扉をノックする音が聞こえた。重く頑丈な扉であるため、ノックの音も低くて鈍い。

(マレーナ様!)

 主が帰って来た――パウラは壁の姿見を覗き込み、前髪や給仕服の乱れを軽く整えてから扉へ向かった。

「はい。お待ちください」

 扉の向こうへ声を掛けながら、彼女は扉の把手を引いた。

「マレーナ様……」

 扉の向こうでは、てっきり王女が待っているものと思い込んでいた。だがそこに立っていたのはオズベリヒの部下、大柄な兵士だった。パウラの顔から笑顔が消え、彼女は思わず後ずさった。

「あの……何かご用でしょうか?」

 彼女はおどおどと言いながら、扉の陰に半身を隠した。

「マレーナ姫はご用件を終えられた。お前に迎えに来るようにと、言付かって来た」

 兵士は小さな侍女のため、身を低くして答えた。優しそうな表情だった。

「マレーナ様がですか?」

「そうだ。姫様の元へ案内するから、私について来なさい」

 彼は今までのような無表情で怖そうな人ではない。パウラはそう思った。

「分かりました。少々お待ちください。準備して参ります」

 ぺこりとお辞儀をすると、彼女は部屋へ引き返した。

「ええと、こういう時は何をお持ちすればいいんだっけ?」

 呟きながら部屋を見回すパウラ。化粧台で使う椅子の背もたれに掛けられたストールが目に入った。

(そうだ、日が沈んで涼しくなってきたから、これをお持ちしよう)

 彼女は化粧台へ駆け寄り、ストールを手に取る。丁寧に畳んで部屋の扉へ駆け戻った。

「お待たせいたしました」

「では、行こうか」

 言いながら兵士は背を向けた。

 パウラは扉を閉め、小走りで彼の後を追った。
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