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メダイユ国物語
第5章 幕間 その二
1
周囲は木々に覆われていた。
すでに日は落ち、東の空に月が輝いている。静寂の中、微かに聞こえるのは虫の音や、夜行性の鳥の啼(な)く声だけである。
ここはニユフレールの森。ラバーン王国と隣国ノルドゼイユとの国境に広がる森林地帯である。ラバーン王国の王族を守る近衛隊隊長、ウェンツェル・デグリエートはやっとの思いでここまで逃げ果せることが出来た。
あの日、ユゲイア王国の軍隊がラバーンの首都リチコルアの中心である国王の居城を襲撃した日、彼はいち早く国王と王妃の元へ駆け付けようとヨヌ・ルーを走らせた。だが、彼が城の塔へ到着した時には、すでに国王と王妃は連れ去られ、近衛隊は壊滅状態だった。
最後のひとりになるまで戦うつもりのウェンツェルであったが、重傷を負った部下がその場を離れるよう彼を必死に説得した。態勢を立て直すために一時的に退却することは、敵に背を向け逃げることではない――そう説き伏せられたウェンツェルは、涙を飲んで五人の従者と共に城を脱出したのだった。道中、ユゲイアの追手により、三人の仲間を失った。味方は二人の従者のみとなった。
あれから何日経っただろう。風の便りで、国王を始め四人の政治家が処刑されたことを知った。
王妃は、そして王女のマレーナは無事だろうか。
いや、今は考えまい――彼、ウェンツェルにとっては、とにかく今はラバーンを脱出し、祖国へ戻ることが先決だ。そうすれば連邦各国に協力を仰ぎ、ユゲイアに対して反旗を翻すことが出来るはずである。あともう少し、この森を抜ければ祖国ノルドゼイユだ。
「殺気を感じる。お前たちはここで待っていろ。少し周辺を見て来る」
焚き火を消し、ウェンツェルは剣を手に取った。生き残った二人の従者も、深手の傷を負っていた。二人にも武器を手渡し、なるべく身を隠して警戒を怠るなと命じた彼は、森の奥深くへと向かった。
周囲は木々に覆われていた。
すでに日は落ち、東の空に月が輝いている。静寂の中、微かに聞こえるのは虫の音や、夜行性の鳥の啼(な)く声だけである。
ここはニユフレールの森。ラバーン王国と隣国ノルドゼイユとの国境に広がる森林地帯である。ラバーン王国の王族を守る近衛隊隊長、ウェンツェル・デグリエートはやっとの思いでここまで逃げ果せることが出来た。
あの日、ユゲイア王国の軍隊がラバーンの首都リチコルアの中心である国王の居城を襲撃した日、彼はいち早く国王と王妃の元へ駆け付けようとヨヌ・ルーを走らせた。だが、彼が城の塔へ到着した時には、すでに国王と王妃は連れ去られ、近衛隊は壊滅状態だった。
最後のひとりになるまで戦うつもりのウェンツェルであったが、重傷を負った部下がその場を離れるよう彼を必死に説得した。態勢を立て直すために一時的に退却することは、敵に背を向け逃げることではない――そう説き伏せられたウェンツェルは、涙を飲んで五人の従者と共に城を脱出したのだった。道中、ユゲイアの追手により、三人の仲間を失った。味方は二人の従者のみとなった。
あれから何日経っただろう。風の便りで、国王を始め四人の政治家が処刑されたことを知った。
王妃は、そして王女のマレーナは無事だろうか。
いや、今は考えまい――彼、ウェンツェルにとっては、とにかく今はラバーンを脱出し、祖国へ戻ることが先決だ。そうすれば連邦各国に協力を仰ぎ、ユゲイアに対して反旗を翻すことが出来るはずである。あともう少し、この森を抜ければ祖国ノルドゼイユだ。
「殺気を感じる。お前たちはここで待っていろ。少し周辺を見て来る」
焚き火を消し、ウェンツェルは剣を手に取った。生き残った二人の従者も、深手の傷を負っていた。二人にも武器を手渡し、なるべく身を隠して警戒を怠るなと命じた彼は、森の奥深くへと向かった。