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メダイユ国物語
第5章 幕間 その二
おかしい――突然、気配が消えた。
森の中を歩きながら、ウェンツェルは訝しむ。
(思い過ごしだったか)
追手の目から逃れるため、ここ数日ろくに眠っていない。神経が過敏になっているのかも知れない。だが、警戒するに越したことはない。彼は念のため、周囲に張り巡らせた罠を確認することにした。
罠と言っても、相手を傷付けたり、命を奪うようなものではない。目に見えないほどの細い強靭な糸を木と木の間に張り、木片を数個縛り付けたもので、何者かが接近し、糸に足を掛けたら木片が音を鳴らして侵入者を知らせるという、簡易的な警報装置である。
罠を仕掛けた木には目印を付けている。それを頼りに一本一本確認して周った。すると一箇所、明らかに人為的に罠が無効化されていた。糸が刃物で切られている。
(しまった!)
敵はすでに侵入している。完全に裏をかかれた。二人の元へ急がねば。ウェンツェルは森の中を走った。
先ほどまで三人で休んでいた場所へ戻って来た。焚き火の跡から僅かに煙が昇っている。けれども従者二人の姿はない。どこかに身を潜めているのだろう。彼は小声で二人の名を交互に呼んだ。だが返事はない。
(どこへ行ったんだ?)
彼がそう思った時だった。背後の茂みからガサガサと音がした。
「誰だ!」
剣先を音の鳴った方へ向けると、そこには従者二人の姿があった。
「お前たちか、無事でよかった……」
そう声を掛けたが、彼らは様子がおかしかった。目は虚ろで虚空を見、口はだらしなく開かれ、口唇の端から黒い液体が溢れている……血のようだ。しかも彼らの胸元には、月明かりを反射する銀色の物体が突き出ている。どう見ても剣だ。二人はすでに剣で刺し殺されていた。
――ドサッ
二人の身体はその場で崩れ落ちた。
(誰かいる)
ウェンツェルは再び周囲を警戒する。彼らを殺した者が、まだ近くにいるはずだ。
「誰だ、出て来い!」
周りの茂みに向かって声を掛けた。すると、木の陰や草むらの中から数人の人影が次々と姿を現した。
(こんなに? 全く気配を感じなかった)
ウェンツェルは驚愕する。彼らは只者ではない。
「さすがはウェンツェル殿、なかなかに勘が鋭い」
ひとりの男が一歩進み出た。黒尽くめの格好をした兵士だ。
森の中を歩きながら、ウェンツェルは訝しむ。
(思い過ごしだったか)
追手の目から逃れるため、ここ数日ろくに眠っていない。神経が過敏になっているのかも知れない。だが、警戒するに越したことはない。彼は念のため、周囲に張り巡らせた罠を確認することにした。
罠と言っても、相手を傷付けたり、命を奪うようなものではない。目に見えないほどの細い強靭な糸を木と木の間に張り、木片を数個縛り付けたもので、何者かが接近し、糸に足を掛けたら木片が音を鳴らして侵入者を知らせるという、簡易的な警報装置である。
罠を仕掛けた木には目印を付けている。それを頼りに一本一本確認して周った。すると一箇所、明らかに人為的に罠が無効化されていた。糸が刃物で切られている。
(しまった!)
敵はすでに侵入している。完全に裏をかかれた。二人の元へ急がねば。ウェンツェルは森の中を走った。
先ほどまで三人で休んでいた場所へ戻って来た。焚き火の跡から僅かに煙が昇っている。けれども従者二人の姿はない。どこかに身を潜めているのだろう。彼は小声で二人の名を交互に呼んだ。だが返事はない。
(どこへ行ったんだ?)
彼がそう思った時だった。背後の茂みからガサガサと音がした。
「誰だ!」
剣先を音の鳴った方へ向けると、そこには従者二人の姿があった。
「お前たちか、無事でよかった……」
そう声を掛けたが、彼らは様子がおかしかった。目は虚ろで虚空を見、口はだらしなく開かれ、口唇の端から黒い液体が溢れている……血のようだ。しかも彼らの胸元には、月明かりを反射する銀色の物体が突き出ている。どう見ても剣だ。二人はすでに剣で刺し殺されていた。
――ドサッ
二人の身体はその場で崩れ落ちた。
(誰かいる)
ウェンツェルは再び周囲を警戒する。彼らを殺した者が、まだ近くにいるはずだ。
「誰だ、出て来い!」
周りの茂みに向かって声を掛けた。すると、木の陰や草むらの中から数人の人影が次々と姿を現した。
(こんなに? 全く気配を感じなかった)
ウェンツェルは驚愕する。彼らは只者ではない。
「さすがはウェンツェル殿、なかなかに勘が鋭い」
ひとりの男が一歩進み出た。黒尽くめの格好をした兵士だ。