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メダイユ国物語
第6章 小さな慰み者
(パウラ……)

 今朝の彼女はおかしい。普段とはどこか様子が違う。ひょっとして彼女は何かを隠しているのでは――マレーナは気掛かりだった。


 その日は一日、何ごともなく過ぎた。夕刻になり、マレーナとパウラは二人で協力して食事の用意をした。

 夕食を終え、マレーナのためにお茶の用意をするパウラは、やはりどこか元気がなかった。この日、マレーナは何度も尋ねたが、その度に彼女は「何でもございません。平気です」と繰り返すだけだった。


「ありがとう、美味しかったわ」

「あの……マレーナ様……」

 お茶を終えた主の手から、空のティーカップを受け取ったパウラは、恐る恐る話しかけた。

「なあに?」

 マレーナはパウラが話しやすいよう、努めて明るい表情を向けた。この子は人に言いづらい、何か深刻な悩みごとを抱えているのかもしれない……そう思ったからである。

 だが、彼女が訊いてきたのは、自分の悩みなどではなかった。

「ファニータ様は……どうなされたのでしょう?」

「――!」

 パウラからの思いがけない問いに、マレーナは動揺した。

 そうだ――彼女は、パウラはファニータの行方について、いまだ何も知らないままだ――マレーナはパウラのことが気がかりなあまり、ファニータのことは頭になかった。

 小さな侍女から不意にその名を聞かされたマレーナは、昨日目の当たりにした、身も凍るようなおぞましい光景を思い出さざるを得なかった。

(どう話せばいいのだろう?)

 醜い獣との間に子を作るという、そんな非道な実験に彼女はその身体を提供した、いや、差し出さずにはいられなかった――。そんなことをありのまま、この子に話していいものだろうか? 否、いいわけがない。年端もいかない子供には、ショックが大きすぎるだろう。

「実はね――」

 意を決したマレーナは、重い口を開いた。

「ファニータは……彼女は体調を崩して、医療センターで入院しているの」

 本当のことは言えない――マレーナは咄嗟に思い付いた、当たり障りのない答えを返した。

「……え?」パウラの表情がたちまち重くなる。「入院って――そんなにお悪いのですか?」

「心配には及びません。日頃の心労が溜まっていたのでしょう。安静が必要とのことなので、ファニータにはしばらく休んでもらうことにしました」
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