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メダイユ国物語
第6章 小さな慰み者
「ふむ、お前は女を抱いたことはあるのか?」

「い、いえ……ありません」

 少年兵は顔を赤くしながら、オズベリヒの問いに答えた。

「ならばちょうどいい。今夜その侍女を抱いて『男』にしてもらえ」

「は……はい」

 ベッドに横たわる少女をチラっと見ながら答える少年の声が弱まる。彼にとっても、今のパウラの姿は不憫に思えた。

「彼女は王族に仕える侍女だ。街の商売女とはわけが違う。こんな機会は滅多にないぞ?」

 オズベリヒはニヤリと薄笑いを浮かべて少年に言う。

「待ちなさい」

 と、そこへマレーナが二人の間に口を挟んだ。

「わたしが……わたしが代わりを務めます。パウラはもう帰してあげて」

 口調は王女としての威厳を湛えているが、彼女の表情は何かにすがり付くような、悲しげなものだった。

「ほう、大した心構えです。感服いたしました」

 それは想定外の反応だったのだろう、オズベリヒは王女の言葉に一瞬たじろいだ。

「ですが、それは叶えられません」

「なぜです」

「姫君にこのような下賎な者の相手をさせる訳にはいきません。この者には使用人が相応(ふさわ)しい」

 オズベリヒはマレーナをなだめると、少年に向かい、

「こちらのことは気にしなくていい。お前は続けろ」

 と命じる。少年は身に着けた防具を外し始めた。

「――マレーナ様、私は平気です」

 ベッドの上で、パウラは身を起こしながら口を開いた。

「マレーナ様に、このような汚らわしいことをさせる訳にはまいりません。わ、私がお務めを全ういたします」

 それが本心からの言葉ではないことは、マレーナにもひしひしと伝わる。本当は嫌で仕方がないのだ。

 パウラは王女に仕える侍女としての義務を果たそうとしている。だが、彼女はまだ十二歳の少女である。声が震えている。涙もボロボロと溢れている。自身を守るための子供の防衛本能だろう、言葉とは裏腹に身体が拒否反応を示しているのだ。

「パウラ……ごめんなさい……」

 今ここで自分が暴れ、オズベリヒに盾突いたところで、パウラが免れることはまずないだろう。これまでの彼の行動で、マレーナは思い知らされている。彼女は椅子から崩れ落ち、床に跪いた。自分のために犠牲になっている小さな侍女を救うことが出来ない――無力な自分にマレーナは唇を噛んだ。
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