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それぞれの後編
第9章 サディスティック・マリッジ〜第四章・夏〜【仲直りの仕方】
定時30分前の給湯室では、ティーサーバーの掃除をする愛里咲の姿があった。

今朝までとは違い、鼻歌でも口遊みそうなくらいに上機嫌だ。


「……愛里咲さん、羨ましい」

突然掛けられた声に、愛里咲の身体が跳び上がる。

「ももももっ森永さん⁉︎ いつの間に⁈ 」

「……琉先輩の奥さんなんて、めちゃくちゃ羨ましい」

愛里咲の言葉なんてまるで聞こえていないかのように、摩美が繰り返しそう言った。


「………」

俯く摩美は、テンションが低く明らかに落ち込んでいるのがわかる。

(……なんか、森永さんがしおらしいと不気味……)

そんな失礼な事を思いながら、愛里咲は水を止め、洗った物を拭き始めた。


「……琉先輩、器用ですよね。昨日の夜だって、もうめちゃくちゃイケてた」

「……‼︎…」

─────”イケてた”?
(何が? どういう意味?)

昨日の夜に何があったのかはわからないけれど、摩美と一緒に居たのだという事はハッキリとわかった。

愛里咲は、重苦しい痛みのする胸をギュッと押さえた。


「……私じゃ叶わない……」

「え?」

いつも強気な摩美の、まるで敗北宣言のような言葉に、愛里咲は怪訝そうに摩美を見つめた。


「琉先輩のあんな顔…初めて見た」

「……どんな顔?」

「でもっ諦めませんから‼︎ 」

「え? ちょっと…⁉︎」

会話が成立しないまま、立ち去る摩美。


(……捻挫良くなってきてるみたいね)

足早に立ち去る摩美の後ろ姿に、愛里咲はぼんやりとそんな事を考えていた。


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