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それぞれの後編
第20章 サディスティック・マリッジ【あとがきのあと】
引き攣った笑みを返しながら、愛里咲がその腕の中から逃げようとすれば、

「そうだな…報告書」

「え?」

思わず聞き返してしまったけれど、その先に告げられる言葉は絶対にいいものではない。


「あの!い、今は夫婦関係良好なので……っ無理、です!」


結婚式で、琉から思いがけず告げられたその ”想い”

あれから何度せがんでも、琉の口から愛は語られない。

だけど、夢のような、幸せの絶頂だったその瞬間は、今でも鮮明にリピート再生出来る。


”愛してる”

あの時の琉の照れた顔。思い出せば、ジワリ…涙が浮かぶ。

”愛里咲が一生思い切り泣ける場所になってやる”

その言葉に込められた琉の想いに、愛里咲の瞳から嬉し涙が零れ落ちた。


「……キミの泣き顔はそそるね。夏川くんのものじゃなければ、私もぜひキミを泣かせてみたいよ」


副社長の言葉に、その瞳の奥の雄の狂気に、愛里咲は目を見開いて固まった。


─────ピンッ!
エレベーターが目的の階に着いたことを知らせてくれる。

「……愛里咲?」

聞き慣れた声。愛里咲の涙を溢れさせ、そしてそれを受け止めてくれる琉の声。

慌ててドアを振り返った愛里咲の耳元に、副社長の低い声が近付けられた。


「使ってみてどうだったか、一週間以内に報告書の提出」

「ひぃぃぃぃっ!むむむ無理っ!無理ですぅ…」

「何が?」

琉に向けられることなく、副社長へと戻された愛里咲の視線。それを無理矢理自身の方へ向けるかのように、琉の腕が愛里咲を引き寄せる。


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