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それぞれの後編
第20章 サディスティック・マリッジ【あとがきのあと】
翌朝。出社した琉は、女子社員から浴びせられる視線がいつもと違うことに気付いた。

こういう時に咄嗟に浮かぶのは、ここ数日挙動不審な愛里咲の姿。
 
涙目で何か言いたげに琉を見ている。なのに目が合えば、まるで知られたくない何かを隠すように慌てて目を逸らす。

こういう時の愛里咲は、無理矢理喋らせようとするほど口を噤む。愛里咲が自身の中に溜め込み切れずに吐き出すのを待つか、琉がその原因を突き当てるしかない。

イジメ…かとも考えた。いつまでも無くならないそれ。だけど、根岸や松田、坂本を味方に付けた愛里咲は、もうそんなことで悩んでいるようには見えない。


(……仕事のことか?)

どちらかといえばおっとりしている愛里咲の働きぶり。それでも、最近は残業にならない内に全ての仕事を終えているようだ。

入社したての頃と違い、今は松田たちがフォローもしてくれている。

仕事で悩んでいるようにも見えない。


エレベーターが到着するまでの間、その位置を知らせる数字を睨むように見上げながら思い悩む琉の耳に、

「昨日!見た?」

「見た!二つに増えてた!」

琉の姿を見つけた女子社員の愉しそうな声が聞こえた。


(昨日?二つ?)

そんな会話の後、決まって聞こえるのは、

「どっちの処女喪失⁉︎ 」


─────処女…男の自分は無縁な言葉。

かといって、愛里咲だってもうとっくに関係のない言葉だ。

(意味わかんねぇ…)

女子社員から浴びせられる野生丸出しな視線に、琉の眉間に深くシワが刻まれる。


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