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  バガテル第25番イ短調  (エリーゼのために)
第1章 エリーゼのために…

 9 

 玄関脇を抜け、中庭に出て、リビングを望む…
 
 あの美しい…

 僕にとっては女性的存在の…

 葵さんがピアノを弾いていた。

「あぁ…」

 やはり、葵さんは美しい…

 この五日間の、僕の夜の妄想の存在よりも、更に美しく見える…


 やっぱり…

 あんなに綺麗なんだから…

 男の筈がない…

 この前は、僕の勘違いだったんだ…

 そう想いながら、ピアノを弾いている葵さんを中庭から眺めていると…

「あ…」

 僕の存在に気付いた葵さんが、ニコッと微笑み、ピアノ演奏を止めて立ち上がり…
 僕に向かって手招きをしてきた。

「あ…」

 ドキドキドキドキ…

 僕の心は一気に高鳴り…

 そして…

 ズキズキズキズキ…

 疼きも一気に昂ぶってきてしまう。

「あぁ…ぁぉ……ぃ…さん…」

 今日の葵さんは、紺色の膝下スカート状のニットのワンピースを着ていた…

 あ…やっぱり、女性なんだよ…

 そうだよ、葵さんは女性なんだ…

 僕の勘違いだったんだ…

「駿くん、また、来てくれたのね」

「う…ん…」

 僕が頷くと…

「駿くん、さあ、上がって…」

 手招きをし、ハスキーな声で僕をリビングルームへと誘う…

「さぁ、どうぞ…
 今日は夜まで誰もいないから…
 ここに座って…」
 と、リビングルームのソファを指差してきた。

 誰もいないから…

 なぜかその言葉に、更にドキドキが加速してくる…
 そして僕はソファに座る。

 そのソファはフカフカして、腰が深く沈む、絶妙な座り心地よさであった…

「今、コーヒーを持ってくるね…」
 葵さんはそう告げて、リビングから出ていった。
 その間、僕は、キョロキョロと左右を見廻しながら、このお金持ち然としたリビングルームを観察していく。

 沢山の洋酒のボトルが並んでいる一目で豪華で高級と分かる様なガラス棚…

 映画やドラマでしか見た事の無い暖炉…

 そして暖炉脇の戸棚の上に飾ってある家族写真…
 三人がにこやかな笑顔で写っている。

 三人家族なのか?…

 真ん中が葵さんか…

 やはり、どう見ても…

 女性にしか見えない… 



「駿くん、お待ちどうさま」

 葵さんがコーヒーセットを持ってきてくれた…




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