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  バガテル第25番イ短調  (エリーゼのために)
第1章 エリーゼのために…
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 この聞こえてくるどことなくハイペースで、荒々しい『エリーゼのために』の調べに、この時僕は、なんとなくだが、イヤな胸騒ぎを感じたんだ…

 まるで葵さんの悲鳴の様な…

 そして、僕を呼んでいるって…

 いつもの僕は、葵さん宅の坂道で一度LINEをし、帰宅してから向かうのだが、今日は直行する。

 いや、行かずにはいられなかったんだ…

「あ、葵さんっ」
 僕は玄関ではなく、昔の様に中庭からピアノのあるリビングの窓に走って行った。

「あ…しゅん…」

 その、僕を見てくる葵さんの顔は…

 涙こそ流れてはいないが…

 まるで泣いているみたいな表情であったんだ。

「あ、葵さん、どうかしたんですか?」
 僕は慌ててそう声を掛けながら窓を開け、リビングに上がった。

「え、な、なんで?」

「な、なんでって…そりゃあ、分かりますよ」

「そう…なの…」

 分かるの…

 少しだけ、葵さんの顔が緩んだ様に見える。

「はい、もちろん…
 いったいなにが?…」

「え、あ…うん…」
 と、下を向く。

 言いたくないのだろうか?…
 そう思ったのだが、とにかく心配で堪らなく、僕は葵さんの後ろに回り、抱き締める。

「ぁ、あぁ…しゅん…」
 そう呟いた、と思った瞬間に…

「え、え、うぅ…」
 と、葵さんは涙をこぼしながら嗚咽をしてきたんだ。

「あ、葵さん」
 僕は心配で堪らなく、後ろからギュッと抱き締める。

「え、うぅ、し、しゅん……」
 更に嗚咽してきた。

「大丈夫、僕が…」
 強く抱き締めていく。

「え、えん、う、うぅぅ…」

 そして約五分程葵さんは嗚咽し…

「え、う、ん、ふ、ふぅぅ…」
 ようやく落ち着き、吐息を漏らした。


「あっ、えっ…」

 その瞬間であった…

「え、あっ、そ、そんな…」

 突然、僕の脳裏に…

 葵さんの心の中の想いが…

 叫びが…

 悲鳴が…

 そして今日あった出来事が…

 まるでフラッシュバックの様に伝わってきて、脳裏を駆け巡ってきたんだ…

「そ、そんなこと…」

 それは…



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