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  バガテル第25番イ短調  (エリーゼのために)
第1章 エリーゼのために…
 19


『まずは、今から、キスの練習ね』

『うん、だってぇ、駿くん、キス下手なんだもん』

『あ…、じゃあ、もうこれからはキスしないの?』
 
『でしょう、だったらキスの練習しましょうよ…』

『キスでわたしが感じるぐらいになって欲しいなぁ』

『あ、ほら、もう、その気になってぇ』

『うふ、駿くんかわいい…』
 
『さあ、キスの練習しよ…』



『キスが下手…』
 
 当たり前だ…

 だって、この前のキスが初めてなんだから…

 いや違う…

 こうして二人きりになることも…

 手を触れることも…

 手で触れることも…

 手で触れられることも

 見つめ合うことも…

 息を感じることも…

 見せることも…

 見られることも…

 握ることも…

 握られることも…

 舐めることも…

 舐められることも…

 舌で感じることも…

 舌で味わうことも…

 女性の下着を見ることも…

 女性の下着に触れることも…

 匂いを感じることも…

 香りに酔うことも…


 そう…

 なにもかもが…

 初めてなんだ…

 初めてなんだから…

 
 下手…

 全部が下手…

 当たり前なんだ…


 つい三十分前までは…

 予想すらしていなかったんだから…


 あ…

 いや…

 妄想は…

 していた…


 あの初めての日から…

 連日、連夜…

 妄想をし…

 自らを慰めてはいた…

 だけど…

 だけど、予想はしていなかった…

 あくまでも妄想…

 夢…

 願望…

 だけど…



「ほらぁ、駿くん…
 わたしの唇を軽く舐めてみてよ…」

 妄想…

 夢…

 願望は…

 現実になった…




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