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  バガテル第25番イ短調  (エリーゼのために)
第1章 エリーゼのために…
 24

「その魔法のせいで…
 わたしが男だってことを忘れちゃってるの…
 わたし達はね…」

「え…」

「ねぇ駿くん…
 今、キミの目の前に居るのはさぁ…
 スカートを履いた…」

 男なのよ…

 わたしは紛れもない男なのよ…

「あ、う、うん…」
 
 それは…

 そんなことは分かっている…

「多分…
 移植された心臓に…」

 心を支配されている男なのよ…



「あ…う…」

 僕は言葉が出ない…
 
「女の格好をして、女のフリをしている男なのよ…」

「う……」

「そんなオトコ女に射精の快感の魔法を掛けられて…
 駿くんは…
 わたしを女と勘違いしてしまっているのよ…」

「ち、違う…」
 何とか言葉を絞り出す。

「違わないわ…」

「違う…違うよ…」

 僕は…

 僕は…

「僕は…
 葵さんを本当の女性だって…
 女性の心を持ってるって…」

 葵さんはじっと僕を見つめてくる…


「そ、それに…
 きっと生前のドナーさんは…
 女性だって、僕は思ってるし…」

「ほら、それが魔法なの…」

 そう思うから魔法なの…

「え…」

「ほら、駿くんはさっきからわたしのことを…
 女の心を持っている男だって言ってる、ううん、そう言っているのと同じよ…」

「あ、い、いや、違う…」

 だが…

 違ってはいないのかもしれない…

 葵さんの言葉は至極最もであり…

 本当に葵さんは…

 心は女性でも、カラダはオトコなのだ…

 言葉の足掻き、抗いにしかならない…


「ただね…射精の快感に騙されてる、魔法を掛けられているだけなの…」

 だが…

 それは違う…

「絶対に違うっ」
 

 それは絶対に違うんだ…

 だって…

 だって…

 この五日間の毎晩、毎夜…

 僕は…


「うっ、あっ、っく…」

 すると、突然…

 葵さんは、顔をしかめ、胸を押さえ…

「あっ、あ、うっ、っく…」

 身を捩り…

 汗を流し、苦しみだした…





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