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  バガテル第25番イ短調  (エリーゼのために)
第1章 エリーゼのために…
 25

「ううっ、っく…」

 すると葵さんは突然、顔をしかめ、胸を押さえ…

「あぁ、ううっ、っくぅ…」

 身を捩り、油汗を流し、苦しみだしたのだ…

「あ、葵さんっ」
 慌てて、苦しむ葵さんの肩を抱く。

「うぅ、ぁぁ、し、駿くん、あ、あのテーブルの、う、上の…」
 苦しみながらもテーブルの上の薬の袋を指差した。

「あ、は、はい」
 急ぎ、その薬の袋を手渡すと、葵さんは何錠かの薬を飲む。

「あぁ、うぅ、っくうぅ…」
 そして僕に寄り掛かりながら、グッタリとベッドに横になった。

「あぁ、はぁぁ、うぅ、ふぅぅ…」

「あ、葵さん…」

 僕は、葵さんに添い寝するカタチで腕まくらをし、心配で…

 だが、見つめるしかなかった…

「はぁ、はぁ、はぁぁ、ふぅぅ…」

 薬を飲んで、約三分くらい…

「はぁ、はぁ、ぁぁぁ…」

 ようやく葵さんは落ち着いてきたのだ…

「あ、葵さん…」

「はぁ、ふぅぅ…うん、もう大丈夫、落ち着いてきたわ…」

「あぁ、よかったぁ…」
 本当にホッとする。

「駿くん、ごめんね…ありがとう」
 そう囁きながら、僕の頬にキスしてきた。

「ふぅぅ…あ、あのね…
 実はね…ホントはねぇ…」

 ウソや、偽りのことを思ったり…

 自分の気持ちをね…

 無理矢理に押さえ込もうとするとね…

 こうして…

 急に心臓が苦しくなっちゃうの…

「え…」

 ウソや偽りって?…

「心臓の記憶がね…
 暴れて、反発してくるの…」 

「え、は、反発してって?」

 僕は少し…
 いや、かなり、驚いてしまっていた。


「きっとさぁ…
 ウソを付くな…
 導き通りに従えってさぁ…
 こうして暴れてさぁ…
 命令してくるのよねぇ…」

「え、命令…って?」

「うん…
 つまり、本当に支配されてるのかもしれない…」

「………」

 驚いてしまい、言葉が出ない…

「そう…支配されて…いるのかも…」

 だってピアノもそう…

 急にピアノが弾きたくなってさぁ、もうどうにもならないくらいに…
 ソワソワ、ドキドキしちゃってさぁ…

 でもね…

 本当にピアノなんか無縁だったから家に無くて…
 
 それに、まだ、そんな反発なんてことや、命令なんてことを思った事が無かったから…

 その頃は…

 拒絶反応の発作なんじゃないかって…




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