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  バガテル第25番イ短調  (エリーゼのために)
第1章 エリーゼのために…
 28

「うわぁ、す、スゲぇ…」

 そう、スゲぇのだ…

 そして、羨ましい…

「心臓ってさぁ、血液循環のポンプみたいなモノじゃない…」

 だからね、移植した天才の心臓の意識を持った細胞がさぁ…
 その血液循環システムによって脳細胞にも浸透して、一体化したんじゃないのかなぁ…

「す、スゲぇ…」
 驚きのレベルが、僕の許容範囲を超えてしまって…
 それ以上の言葉にならなかった。


「…でね、開き直って全てを受け入れることにして、あとは日々自宅療養という生活になって…」

 じゃあ、好きな時にピアノ演奏してもご近所に迷惑にならない様な環境の家に…
 って、約半年前かなぁ、ここに引っ越してきたの。

「そして…
 この部屋から…」

 通学している駿くん、キミを見かけたの…
 葵さんはそう呟きながら、僕を見つめてきた。


「あぁ、なんて綺麗な子、男の子なんだろう…」

 一目惚れしちゃった…
 恥ずかしそうに囁いてきた。

「えっ、き、綺麗な…」
 僕の心は急に騒ついてくる。

「うん、綺麗な男の子って…」

 そう、僕は…

 小さくて…

 細くて…

 色白で…

 小学生までは、よく女の子に間違われてしまうくらいであったのだ…

 それが中学生になり普段から男子制服を着るようになって、はっきり区別が出来る様になったのと…
 髪の毛をショートな、いわゆるソフトモヒカン系の中学生なりのツンツン髪型にしてからは、見間違われなくなったレベルであった。

「そう、綺麗な男の子…
 一目惚れしちゃったの…
 そしたらね…」

 また、あの、いや、この心臓が急に騒つき始めたのよね…

「えっ…」

 え、心臓が…

「うん…
 駿くんの登下校の時間帯を狙って、ピアノ演奏をしろってさぁ…」

 騒つかせてきたのよ…

「そう、それはまるで…
『エリーゼのために…』ではなくて…
『駿のために…』みたいな感じでさぁ…」

 わたしはここに居るよって…

 アピールしろって、騒つかせてきたの…

「え、そ、そうなんだ…」

 確かに、ほぼ毎日、毎朝、毎夕方、このお屋敷の横を通る度に、ピアノ演奏の調べが聞こえてはいた…

「だからね、この前にね…
 プリントを持ってきてくれた時にはね…」

 本当に、この心臓が…

 バクバクと…

 高鳴り…

 昂ぶったの…



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