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  バガテル第25番イ短調  (エリーゼのために)
第1章 エリーゼのために…
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「ねぇ、駿…」

 唇を離し、僕の目を見つめてきた…

「あのね…」

 あのね…

 あのね、しゅん…

 小さな声で囁いてくる…

「…あのね、しゅん……」

 なんだろう?…


「しゅん、あのね、あのね…」

 わたしとひとつになりたいよね?…

 突然、そう訊いてきた。

「え…ひ、ひとつに…」

「うん…ひとつに…」
 僕は、言っている意味がわからなかった。

 え、どういう意味だ?…

「ひとつになりたい…よねぇ…」

 ひとつに…

 ひとつになるって…

 いや…

 もう、僕達は…

「え、も、もう、僕達は…
 ひとつじゃないんですか?…」

 思わず…
 そう訊き返してしまった。

「え、うん、そう…
 あ、違う、違うの…
 そうじゃなくってぇ…」

「え?…」

 そうじゃないって…

 何だ?…


 そして…

「あのね、駿、あのね…」

 ほら、わたしと駿はこうして愛し合ってるわよねぇ…

「あ、うん、はい…」

「だけどさぁ…
 ふ、普通はさぁ…」

 普通って何だ?…

「ほら、普通はさぁ…」

 普通は男と女じゃない?…

「あ…う、うん…」

 あぁ、そういうことか…

「ほら、普通の男女はさぁ、愛し合って、昂ぶったらさぁ…」

 セックスするじゃない…

「は、はい…うん…」

 そうか、そういうことか…

「だけどさぁ…」

 わたしと駿はさぁ…

 男と男だからぁ…


「え、いや…」

 いや、違う…
 とは、言葉には出せなかった。

 だけど、葵さんには僕の心の声は筒抜け…


「ううん、哀しいけど男と男よ…」

「い、いや…」

 カラダはそうかもしれないけど、心は男と女なんだ…

「うん、駿の優しい気持ちは十分分かっている…」

 ほら、やっぱり、筒抜けだ…

「でね…
 わたしと駿みたい関係はね…」

「え…」

「ひとつになりたくてね…」
 
「え…」

 なんだろう?…



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