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第1章 エリーゼのために…

　57

「ごちそうさまでしたぁ」

　僕達は、葵さんが作った
『フレンチトースト』を食べ、そしてリビングルームに来て…

「駿、コーヒーどうぞ…」
　
　コーヒーを煎れてくれ…

　葵さんはピアノを弾き、奏で始めた。

「あ…
　いつもの『エリーゼ…』と違う…」

「うん、違う、ていうか、最近はこれがお気に入り…
　ううん、わたしの…」

　わたしの心が…

　なぜか、これを奏でたがるのよね…

　葵さんはそう囁きながら、ピアノを奏でていく…

「あぁ、なんかぁ、穏やかで、ゆっくり、優しい感じの曲ですねぇ…」

　そう、本当に穏やかで…

　ゆっくりで…

　優しくて…

　まるで森の中を歩いているみたいに感じてくる曲であるのだ…


「うん、そう穏やかよねぇ…」

　これはね…

『G線上のアリア』っていう曲なのよ…

　そしてバイオリンと併奏曲でもあるの…

「『G線上のアリア』ふうん…」

　併奏曲？…

　それは分からないが…

「素敵な曲だなぁ…」

「うん…」

　なんかね…
　
　この『心』がね…

　これがいいって…


　葵さんの『心』…

　それは、おそらく生前の記憶と意思を持っているであろう…

　移植された『心臓』のこと…

　その『心』の生前の持ち主は…

　おそらく心が美しく…

　IQ130以上の天才で…

　ピアニストで…

　優しく、美しい女性だったに違いない…

「そうなの、『心』がね、この曲を選んできたのよ…」
　
　それは多分ね…

アップテンポな『エリーゼのために』で駿を呼び寄せ…

　こうして愛し合えたから…

　この『G線上のアリア』で『心』自身の平穏で、穏やかな想いを表してきているのだと…

　わたしは想うのよ…


　本当に不思議な話しではあるのだが…


　多分…

　葵さんの言う通り…

　間違いないであろう…



　そう…

　僕と葵さんの二人は…

　この不思議な『心』に引き寄せられ…

　結ばれ…

　愛し合っているんだ…

　僕はそう信じている…