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  バガテル第25番イ短調  (エリーゼのために)
第1章 エリーゼのために…
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「そうなんだ…
 駿、ありがとうね、すっごく嬉しいわ…」
 
 そんな僕の回想を瞬時に読み取ったかのように囁き…
 僕にキスをしてきた。

 やっぱり葵さんは、僕の心の中が見えるんだ…

「ありがとう…駿、大好きよ…」
 そして僕を見つめ囁く。


「あ、う、うん…」

「ねぇ、塗ってみようかなぁ」
 葵さんはそう言ってくれて、プレゼントしたルージュを塗り始めてくる。

 そんな葵さんの仕草、様子が、本当に嬉しそうで…
 僕も吊られて嬉しくなってしまう。

「うん、よし、はい、どう?」
 そして僕を見る。

「あぁ、き、キレイです…」

「そう?、似合うかなぁ?」
 鏡を見る。

「あぁ、本当だわ、本当に唇が艶々ピンク色ぉ…」
 本当に艶々で、かわいピンク色に潤っていた。 

「きゃあ、駿、ありがとうねぇ、すっごく嬉しいぃ」
 そう小さく叫び、僕を抱き締め、再びキスしてくる。


 その艶々ルージュは、甘かった…

 甘い味がする…

「わたしさぁ、外には病院以外はさぁ、殆ど出ないからさぁ…」

 お化粧なんてしたことないのよねぇ…

「でもぉ、春から高校に通うしぃ、外にも出るようになるからさぁ…」

 これからは少しお化粧もしようかなぁ…
 葵さんは鏡を見ながら、そんなことを話してきた。

「このルージュ、薄いピンク色だからすっごくいい…」

 葵さんは本当に嬉しそうで…

 僕も本当に嬉しい…

「あっ、あらぁ、駿…」

 すると葵さんは僕の顔を見なながら…

「わたしのルージュが付いちゃってるよぉ」
 そう呟き、ティッシュペーパーを取り…

「あ、あらぁ…」

 再び僕の顔を…
 いや、そのルージュが付いてしまったという僕の唇を見つめてくる。

「ね、ねぇ、ちょっと、駿…」

「え…」

「あらぁ…駿…」

 すると葵さんはルージュを手に取り…

「動かないで…
 ダメよ、動いちゃ…」

 そう囁き、僕の顔を押さえて…

 ルージュを塗ってきた…




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