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  バガテル第25番イ短調  (エリーゼのために)
第1章 エリーゼのために…
 76

「え、そ、そんな、葵さんの方が…」

 そう葵さんの方が全然…

 ずっと、ずうっと、何倍も綺麗なのに…

「違うわよ、しゅんは、かわいいの…
 わたしの綺麗とは、また違うのよ…」

 ほら、また、心を読まれてしまった…

 そして葵さんは再び僕の肩を抱き寄せ、鏡の前に二人を並ばせて映してきた…

「ほらぁ…
 わたしは綺麗でぇ…
 そして、しゅんはぁ…」

 メッチャかわいいでしょう…

 綺麗とはまた、違うでしょう…

「そんなかわいい女の子がさぁ、しゅんはさぁ、鏡を通してさぁ…
 弄られ、喘いでいるのを見ちゃってるのよぉ…」

 まるでエロ動画みたいじゃない?…

「え、あ…」

 確かに、エロ動画みたいだ…

「それにさぁ。未だ、しゅんはさぁ、この自分のかわいい姿、顔を見たばかりだからさぁ…」

 抵抗力も、免疫もないんだからぁ…

「え…」

「だってぇ、わたしだってぇ…」

 女の子になったばっかりは…

 毎日、毎晩、鏡の自分を見て…

 葵さんは、恥ずかしそうな顔をしながら…

「興奮してさぁ、自分でしてたんだもん…」
 そう、言ってきた。

「え、あ、葵さんが?」

「うん、はずかしいけどさぁ…
 自分が、わたしが、あまりにも綺麗で…」

 だけど…
 だけど、今なら、その葵さんの気持ち、思いが良く分かる気がする。

「だからぁ、今のしゅんはさぁ、あの時のわたしと同じだと思うのよ…」

 僕は…

 違うとは言えなかった…

「だから、よくわかるから…
 ヤキモチやいちゃうの…
 その位にしゅんがかわいいから…
 かわいい女の子になっちゃったから」

 そして葵さんは、僕の顔を両手で押さえ、キスをしてくる。

「さあ、だからぁ、わたしを、わたしだけを見て…」

 そして葵さんは鏡にタオルを掛けて、隠した…

「さあ、しゅん…わたしだけを見て…」




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