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千一夜
第54章 第七夜 最終章 真空のゆらぎ
「こんなことを言ったらいけないんだけど、私、京子ちゃんのこと好きになれなかったんです」
「えっ?」
 遠海が京子のこと話し出したので私は驚いた。
「一卵性双生児って顔だけじゃなくて声も似てるんですよ」
「声も?」
「ええ」
「あの、好きになれなかった理由なんですが、たとえば京子さんと都子さんでは性格が違って、そういうところを受け入れられなかったとか戸惑ったとか、そう言うことですか?」
「うん~ん、どう言ったらいいのかな、性格というか、全体的な雰囲気というか。でもそのときはこう思っていました。京子ちゃんは私たちの前に急に現れたから、都子ちゃんとはつき合いが長いし、だから京子ちゃんにはまだ気を許すことができないのかなと」
「急に現れたとは、どういうことですか?」
「都子ちゃんと京子ちゃんのご両親は彼女たちが小学校に上がる前に離婚したんです。そのとき、お姉ちゃんの京子ちゃんがお母さんについて、都子ちゃんがお父さん側についたそうなんです」
「ひょっとして、二人のご両親が再婚されてまた一緒になられたんですか?」
「そうだったら良かったんでしょうね。でも違います。これ、噂なんですが、どうやら京子ちゃんのお母さんに好きな人ができたらしいんです。だから京子ちゃんもお父さんと都子ちゃんと暮らすことになったと」
「言いにくいんですが、京子さんは母親に捨てられた……」
「噂ですから、真実は違うかもしれません。でもそう言う噂って消えないんです。世間の好奇な目を一人で浴びたのが、二人のお父さん江村隆さんなんです。都子ちゃんのお父さんは警察官だから、尚更辛かったと思いますよ」
「なるほど。心中と言う噂にもそう言う伏線があったんですね」
「ええ」
「最後に一つお訊ねします。都子さんは本当に都子さんだと思いますか?」
「はっ?」
「つまり、何と言ったらいいのか……」
「長谷川さんが言いたいことは、あのとき助けられた女の子は都子ちゃんじゃなくて京子ちゃんじゃないかということですね?」
「そうです」
「……」
 遠海は沈黙した。
「……」
 私は遠海の答えを待つよりほかない。いや、万が一遠海が何も言わずに「失礼します」と言って電話を切ろうとしても、答えてくれと遠海に催促することはできない。
 沈黙は続いた。
「わかりません」
 遠海ははっきりとそう言った。否定も肯定もせず「わからない」と答えた。
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